大容量バッテリーを使わず“電欠”の不安解消、「毎日の充電は不満にならない」:台湾電動スクーターメーカーの野望(後編)(2/2 ページ)
2018年6月にキムコが発表した2台の電動スクーターの新モデル「Many 110 EV」と「Nice 100 EV」は、いずれも「iONEX(アイオネックス)」に対応している。アイオネックスとは、キムコが普及を目指している小型モビリティ用の電力供給ソリューションの名称だ。キムコ 会長のアレン・コウ氏は「車両の概念に、スマートフォンのアプリや急速充電ステーション、公衆コンセントのネットワークなどといったものを含めたもの」と表現している。
スマホを毎日充電するのは苦にならない、電動スクーターも
内蔵バッテリーと脱着式バッテリーを併用するというアイデアは、「電欠の心配を払拭する」という課題に対して、バッテリーを大型化する以外の答えを探した結果だ。小さなバッテリー容量のままでも、充電手段を複数用意することで利便性と安心感を高めるという方向だ。
キムコではアイオネックスを開発するにあたり、まずテスラ車のユーザーをリサーチしたという。そこで浮かび上がってきたのは「わざわざガソリンスタンドへ行かなくていいということがメリットになる」ということだったとか。コウ氏は「毎日充電しなければいけないというのは不満だろうと思っていましたが、これは誤解でした」と説明する。
自宅で簡単に充電できると日常生活の一部となって、面倒ごとではなくなるという結論だ。「みなさんは毎日、スマートフォンを充電していますよね。でもそれは当たり前のことであって、難しいことをしていると考える人はいません」とコウ氏。そこで、「最も重要な概念は、自宅で日常的に、簡単に充電できることだと考えたわけです」と語る。
こうした理由から、自宅では車体にケーブルをつなぐだけでなく、脱着式バッテリーを部屋に持ち込めるようにすることで、まず2つの充電手段を確保した。さらに、街のあちこちに充電ステーションがあることで「いつでも、どこでも気軽に充電できる」という安心感を得られるというのが、アイオネックスの魅力というわけだ。
「スマートフォンのユーザーはバッテリー残量が少なくなったら、それぞれの判断でいろいろな充電スポットへ行きます。アイオネックスも、これと同じような概念です」とコウ氏は説明する。ちなみに、「日常的な使い方なら、脱着式バッテリーを契約するのは1本で十分でしょう。余計なコストをかけて2本リースする必要はないと思いますよ」という。もしツーリングなどで一度に長距離を走り、充電する時間も惜しいという場合はレンタルバッテリーを使ってほしい、とのことだ。なおバッテリーは、シート下の収納スペースに3本入れることができる。
アイオネックスはグローバル展開、他の二輪車メーカーの参加歓迎
キムコでは現在、台湾全土で充電ステーションの整備を進めている。2019年末までには2000カ所にする予定で、街頭だけでなく集合住宅や公共施設、商業施設の駐輪場などに設置されることになる。またこれとは別に、今後2年で3万カ所の電源スポットを確保するという。これはさまざまな店鋪が、アイオネックス対応車両にコンセントを貸し出すというものだ。
さらに同社では、アイオネックスを独自規格としてグローバルに展開しようとしている。会長のコウ氏は「20カ国で充電ネットワークを構築し、世界中で50万台以上の電動二輪車を販売する」という目標を明らかにしている。ただし、従来の車両販売ビジネスとは形態が大きく異なる。アイオネックスを普及させるには政府機関や官公庁、自治体などと連携して、給電インフラの整備をおこなうことが不可欠だ。そこで現在は複数の自治体などと話し合いを進めているところだという。また大企業がアイオネックスを採用し、業務で使う二輪車を電動に置き換えるという導入手法もありそうだ。
ところでアイオネックスは、他の二輪車メーカーも使うことができるのだろうか。これについてコウ氏は、歓迎する意思を明らかにしている。「バッテリーやアプリケーションなどの規格は台湾当局に申請し、すでに公開されています。この規格に合致した電動モデルならば、アイオネックスの充電ステーションなどを使うことができます」とのことだ。
キムコ自身でも、さまざまな対応モデルを追加投入する予定で、今後3年で10車種を発売する予定だという。「私たちは、アイオネックスがグローバルスタンダードとなることを目指して努力しています。カギとなるのは、参加企業に満足してもらえるプラットフォームを提供することです」とコウ氏。
一方、台湾ではGogoro(ゴゴロ)が先行して電動スクーターの販売とバッテリーシェアリングのネットワークを展開しており、2018年9月にはヤマハ発動機もこれに加わることが発表された。アイオネックスは後発となるが、キムコは台湾をはじめ、ヨーロッパ各国で年間スクーター販売台数のトップを記録し続けるビッグプレイヤーだ。今後は台湾の2社が、世界のスクーター市場の電動化を先導してゆくことになるのかもしれない。
筆者プロフィール
古庄速人(ふるしょうはやと)
工業デザイナーを目指し、専門学校の自動車デザイン学科に入学。修了後はカーデザイン専門誌の編集に携わりながら、フリーランスのライターとしても活動を開始。現在は自動車関連誌や二輪誌、Webメディアなどで記事やコラムを執筆中。技術と感性の双方の視点から、さまざまなトランスポーテーションのデザインをチェックしている。また新しい「乗り物」や新興国のモータリゼーションに強い興味を持ち、世界各国のモーターショーやモーターサイクルショーの視察を続けている。日本カーデザイン大賞の選考委員も務める。
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