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ホンダの電動化戦略が本格始動、5人乗りセダンへのこだわりはどう生きるか電気自動車(2/2 ページ)

ホンダは、5人乗りセダンタイプの新型プラグインハイブリッド車(PHEV)「クラリティ PHEV」を発売する。クラリティ PHEVは、2016年3月に発売した燃料電池車(FCV)「クラリティ フューエルセル」と共通のプラットフォームを採用したクラリティシリーズの1つ。

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最高時速160km、最大100km超のEV走行を実現するために

 クラリティ PHEVのEV走行距離やEVとしての走行性能は、米国をターゲットに目標を設定。米国のユーザーの4分の3をEV走行で走らせるには47マイル(約75km)以上が必要だった。また、「単純に距離を伸ばすだけでなく、出力も重視した。EV走行距離が長いPHEVは他社も投入しているが、上り坂や高速道路での合流や追い越しでエンジンがかかってしまうことが多い。そうした走行シーンでもエンジンがかからず、EVとして粘ることを意識した。ZEV規制のクレジット(係数)は意識しているが、EVとしての使い勝手を優先している」(清水氏)。

 清水氏は「結果として、クラリティ PHEVを日本市場に持ってくると、他社がPHEVで十分だと考えたEV走行距離よりも長くEV走行できる。日本のお客さまがクラリティ PHEVに乗って、『自分の使い方ならEVでいける』と感じてもらえれば、今後EVのラインアップを拡充した時にEVを選択肢としてみてもらえるだろう」とコメントした。

 100kmを超えるEV走行距離とセダンでのパッケージングを両立するため、駆動用バッテリーの大容量化と高出力化に取り組んだ。クラリティ PHEVのバッテリー容量はアコード PHEVの約2.5倍となる17kWh、出力は同1.4倍に向上させた。

駆動用バッテリーのレイアウトイメージ(左)。ホンダ初となる水冷方式の冷却機構を採用した(右)(クリックして拡大)

 バッテリーはフロントシートとリアシートの下に配置したが、居住空間の確保のため空冷ではなく水冷で冷却する。水冷の採用により、セル同士の間に空間が必要な空冷よりもバッテリーユニットのサイズを抑えながらスペースを最大限活用でき、高い冷却性能も得られたとしている。電動ウオーターポンプからバッテリー下部のウオータージャケットに冷却水を供給し、同じ経路でDC-DCコンバーターや充電器も冷却する。バッテリーの冷却が不要な場合は三方弁を経由してバッテリーのウオータージャケットを通らない冷却回路にバイパスさせて効率を高める。駆動用バッテリーを水冷で冷却するのはホンダとして初めてだという。

 駆動用モーターは、アコード PHEVと比較して最高出力を9%、最大トルクを3%増やしている。発電用も含め、モーターは従来の丸型銅線から角型銅線に変更して密度を高めた。従来と比較して25%の小型化と23%の軽量化も達成した。

SiCデバイスはクラリティ フューエルセルだけ


パワーコントロールユニットの構造。バッテリーとモーターの性能向上に合わせて、パワーコントロールユニットも出力を高め、小型化にも取り組んだ(クリックして拡大) 出典:ホンダ

 バッテリーとモーターの性能向上に合わせて、昇圧コンバーター(VCU)と一体のパワーコントロールユニット(PCU)も改良。PCUをエンジンルーム内に配置するため、PCUはアコード PHEVと同等のサイズを維持しながら出力を3.3倍、密度を2.8倍に高めた。

 「VCUの出力向上では、2つ回路を並列化し、交互に電流を流すことで電流の脈動を打ち消せるようにした。これにより、コンデンサーを小型化できた。また、VCUを小型化するため、電流センサーとインダクターを隣接させたいと考えた。従来構造のインダクターのコアでは磁束が周辺に漏れるため、漏れ磁束を打ち消せるT字型のコアを採用した。2つのコイルを縦に分けるような構造だ」(ホンダの説明員)

パワーコントロールユニットのカットモデル(左)。鏡に反射して見えるユニット底部にあるのがT字型のコアを採用したコイル(右)(クリックして拡大)

 クラリティ フューエルセルでは、VCUのSiC(シリコンカーバイド)デバイスをパワーモジュールに使用していたが、クラリティ PHEVやクラリティ エレクトリックではSiCデバイスを採用せず、既存のHVシステムと共通のシリコンデバイスを使用してコストを抑えながらVCUの小型化を達成した。

 現時点ではSiCデバイスの歩留まりに課題があり、リース販売で台数が限られるクラリティ フューエルセルよりも販売台数の規模が拡大するクラリティ PHEVで採用するのが難しかったという。また、クラリティ フューエルセルは、駆動用モーターやPCU、燃料電池スタックまでを含めた燃料電池パワートレインを全てボンネットに収めるために、SiCデバイスを積極的に採用した背景もある。

 今後、電動車のラインアップを拡充していく上では引き続きPCUの小型化に取り組むため、SiCデバイスの採用については継続して検討していくという。

 ホンダは2030年までに販売台数全体の3分の2を電動車にする計画だ。その内訳は、エンジンを搭載したクルマが35%、HVやPHEVが50%、EVやFCVが残りの15%となる。現在、日本国内ではPHEVとEVの市場は発展途上だが、車両セグメントの異なる日産自動車「リーフ」やプリウスPHVの全面改良を機にPHEV、EV市場の規模が拡大していくと見込んでいる。「ホンダが電動化を本格的に始めることを、クラリティ PHEVから発信していく。クラリティシリーズは電動化戦略のパイロット版だ」(ホンダ 商品企画担当の森谷翔太氏)。

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