高級車から広がる48Vシステム、ディーゼルエンジンに代わる環境技術に:いまさら聞けないクルマのあの話(4)(3/3 ページ)
聞いたことはあるけれど、正確に知っているかといわれると自信がない……。クルマに関する“いまさら聞けないあの話”を識者が解説します。第4回は、ディーゼルエンジンに対する逆風が強まる中、製品化が相次いでいる「48Vシステム」です。48Vシステムの特徴とは一体何でしょうか。
生まれた電力の余裕を何に使うか、エンジンの効率化へアプローチさまざま
プレミアムブランドから導入が進んでいる48Vシステムだが、本来の狙いは安価かつシンプルな構成のためクラスを問わず幅広く応用できる点だ。大手メガサプライヤー幹部も「排ガス規制の強化とともにディーゼルエンジンの後処理システムのコストが上昇しており、いずれ48Vシステムとコストが逆転する」とディーゼルエンジンに対する優位性を説明する。
また、すでにVWは次期「ゴルフ」への採用を表明するなど、今後は普及に伴うスケールメリットを生かしてコスト要求が厳しい小排気量のガソリンエンジンでも採用が広がっていくとみられる。さらに48Vシステムはディーゼルエンジンでも使えるため、コスト負担は増大するものの、ディーゼルエンジンと組み合わせれば燃費性能を一層高めることも可能となる。
加えて、VWの「ディーゼルゲート」事件をきっかけにディーゼルエンジンに対する逆風が強まっていることが、48Vシステムの普及を後押ししている側面もある。欧州自動車メーカー各社は当初、欧州のCO2規制をディーゼルエンジンで対応する戦略を進めていたが、VWの事件以降、フランスや英国がディーゼル車の販売禁止を打ち出した結果、ディーゼルエンジンの廃止を表明するメーカーが相次いでいる。その中で安価にガソリン車の燃費を向上するアイテムとして48Vシステムの重要性は従来以上に高まっている。
48V化により電源に余裕が生まれることは、エンジンの効率化に対するアプローチの選択肢も広げそうだ。現在実用化されているシステムでは、エンジンそのもののトルクアシストや電動過給器の採用といった使い方の他、エアコンやウオーターポンプなどエンジン関連の補機類を電動化してエンジン負荷を軽減する手法を採用している。
一方でクルマにはトランスミッションや足回りなどエンジン以外でもさまざまな部品で油圧ポンプなどの補機類が使用されており、48V化に対して多くのサプライヤーが関心を強めている。大手変速機メーカーの幹部は「電源に余裕があればCVT(無段変速機)ポンプなどの電動化も可能で、より効率を高めた変速機を提案することができる」とメリットを挙げるなど、48V対応部品の開発を積極化しており、今後は効率化に向けたサプライヤーによる新たな提案が増えることが予測される。48Vシステムによって生まれた電力の余裕をどのように活用するかはメーカー各社の手腕が問われるところであり、独自性の高い電動化システムの実用化にもつながりそうだ。
日系メーカーは48Vシステムにどう対応するのか
このようにさまざまなメリットがある48Vシステムだが、欧州発のシステムということもあり、今のところ日系メーカーの間では導入が進んでいないのが実情だ。特にフルハイブリッドを量産効果でコスト競争力を高めたトヨタ自動車やホンダは48Vシステムの採用について否定的な姿勢を見せる。一方で、すでに12Vでマイルドハイブリッドを展開するスズキや、内燃機関を主軸とした技術開発を進めるマツダなどは、48Vシステムを採用するメリットが大きいといえる。欧州に続き日本でも新たな電動化技術として定着するのか。日系メーカーの今後の動向に注目が集まっている。
関連記事
- ベンツ初の48VマイルドHV、20年ぶりの直6と組み合わせて「Sクラス」に採用
メルセデス・ベンツ日本は、電源電圧が48Vのマイルドハイブリッドシステムを搭載したフラグシップセダン「S450」を発表した。メルセデス・ベンツブランドが48Vマイルドハイブリッドシステムを採用するのは初となる。 - ボッシュはなぜディーゼルエンジン技術の開発を重視できるのか
Robert Boschの日本法人であるボッシュは、自動運転技術やパワートレーン、コネクテッドカーなど重点分野の取り組みを発表した。 - 48Vマイルドハイブリッド車を四輪駆動にする「eHUB」、後輪側のブレーキ回生も
NTNは、「第45回東京モーターショー 2017」において、48Vマイルドハイブリッドシステムに対応するモータージェネレーター機能付きのハブベアリング「eHUB」を展示した。 - アウディの新型SUVは全長5m超で4人乗り、マイルドHVも搭載
アウディは「第87回ジュネーブ国際モーターショー」において、電源電圧48Vの車載システムと電動スーパーチャージャー、ガソリンターボエンジンを組み合わせたマイルドハイブリッドSUV「Q8 sport concept」を披露した。 - アウディが新型SUV「SQ7」にディーゼルエンジンを採用できる理由
フォルクスワーゲングループのアウディが、2015年の総括と2016年以降の戦略を発表する年次会見を開催。48Vシステムやプラグインハイブリッド車、電気自動車、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンと幅広く新技術を投入していく方針を示した。会見の様子と、新たに技術開発部門 担当取締役に就任したシュテファン・クニウシュ氏へのインタビューを併せてお送りする。 - EVの駆動系でティア1目指すパナソニック、狙うは「低電圧の超小型モビリティ」
電気自動車(EV)のパワートレインに注力するパナソニック。ティア1サプライヤーとして受注を狙うのは、短距離移動が前提の超小型EV。中国などで一定の台数の規模を見込むビジネスだ。 - 48Vシステムのコストはフルハイブリッドの半分、2016年から欧州市場で導入
ドイツの駆動部品メーカーSchaeffler(シェフラー)によると、欧州市場で2016年から導入される見込みの48Vハイブリッドシステムのコストは、フルハイブリッドシステムの半分で済むという。 - ボッシュが48Vハイブリッドシステムを提案、CO2排出量を18%削減可能
ボッシュは、「人とくるまのテクノロジー展2014」において「48Vハイブリッドシステム」を提案。CO2排出量を従来比で5〜18%削減できるという。 - スズキのフルハイブリッドは、性能よりも小型軽量化とコスト低減が優先
スズキは、小型ハイトワゴンの「ソリオ」「ソリオ バンディット」に新開発のフルハイブリッドシステムを搭載して発売した。システムは小型軽量化とコスト低減を図った。ソリオの広い室内空間を犠牲にせず、車両重量の増加も抑えた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.