“10万円均一”で売り出す製造現場向けIoT基盤、日本電産に成算はあるのか:製造業がサービス業となる日(3/3 ページ)
日本電産は2018年3月、製造現場向けのIoTクラウド分析サービス「Simple Analytics」を発表。同社の製造現場で培ってきた知見やノウハウを基に開発したもので、サービス開発は日本電産が、販売とサポートはセゾン情報システムズが担当する。製造業である日本電産が、自社開発のIT関連サービスを本格的に外販するのは初めてのことだ。
「オープン価格は採用をためらう最大の理由にしかならない」
Simple Analyticsの大きな特徴の1つが価格設定になるだろう。「適合性評価」「システム構築支援」「簡易分析支援」という3つのステップから成るコンサルティングサービスと、サブスクリプション契約のシステムサービスで構成されるが、その価格は、コンサルティングサービスの各ステップが1回当たり10万円、システムサービスも月額10万円となっている。
サービス名称 | 項目 | 単位 | 価格 | サービス概要 |
---|---|---|---|---|
コンサルティングサービス(契約は工場単位) | 適合性評価 | 1回 | 10万円 | アセスメントシートを通じ、IoTの取り組み状況をスコアリング・評価 打ち合わせ3回(3回を超過する場合は追加購入) |
システム構築支援 | 1回 | 10万円 | 生産ラインと本サービスの接続を支援 簡易分析に必要なデータクレンジングを実施 打ち合わせ3回(3回を超過する場合は追加購入) |
|
簡易分析支援 | 1回 | 10万円 | 出力されたヒストグラム、管理図より特異点や異常傾向を把握し、原因と対策を協議 打ち合わせ3回(3回を超過する場合は追加購入) |
|
システムサービス(コンサルティングサービスの利用が前提) | IoT基盤提供 | 月額(サブスクリプション) | 10万円 | 生産ラインと本サービスをつなぐIT基盤を提供。標準レポートを活用し、システム開発を行わず、生産ラインのデータを整理・格納 10万レポートまで(10万レポート異常は追加購入) |
「Simple Analytics」の価格体系 |
丸谷氏は、10万円均一というこの価格設定を決めた理由について、「オープン価格は採用をためらう最大の理由にしかならないので、ダメだとおもっていた。工場のライン長が採用を決められるのは価格が20万円までの製品やサービス。そこで、10万円均一という価格に思い切って決めた」と説明する。また、主要顧客として中堅・中小製造業を想定しているため、投資効果をすぐに確認できることも意識した価格になっている。
だが、競合他社のIoTプラットフォームは、導入までで数百万円かかることもざらにある。同じIoTプラットフォームであるSimple Analyticsは、10万円均一で果たしてもうかるのか。丸谷氏は「簡易分析によるSimple Analyticsの効果を素早く理解してもらい、その上で次の段階に進むのが基本コンセプト。GreenForestを中心にサービスを広げていく。小さく始めて大きく育てる」と話す。永田氏も「10万円均一だけでは、明らかに収益性は高くない。目の前のことだけではなく、その後ろにある部分をしっかり提案していく。開発ロードマップもあり、AI(人工知能)活用や予防保全、Simple Analyticsの導入以外の幅広いコンサルティングなども視野に入る」と語る。
Simple Analyticsを展開して行く上での課題もある。「やはり、生産設備からデータをとってクラウドに上げるところだろう。データが取れなかったり、PLCから取るのに時間がかかったりすることが多い。いかに効率的にデータを取れるかが重要だ」(丸谷氏)。
Simple Analyticsの事業目標は2020年度までで300契約としている。永田氏は「2017年度中に行ったテストマーケティングで約100社と接点があり、それほど無理な数字ではない。だからこそ前倒しで達成したいと考えている」と意気込む。
金嶋氏は「日本電産として本格的なITサービスの外販は初めて。セゾン情報システムズも製造業と組んでのビジネスは初めてだ。実は、ソフトウェアベンダーが異業種と組む事例は国内ではあまりない。今回の協力関係は、今後に続くロールモデルになるのではないか」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 日本電産が製造現場向けIoT分析サービスを開発、価格体系は「10万円」
日本電産とセゾン情報システムズは、日本電産が製造現場で培ってきた知見やノウハウを基に開発したIoTクラウド分析サービス「Simple Analytics」を発表。両社の共同事業として展開し、サービス開発は日本電産が、販売とサポートはセゾン情報システムズが担当する。投資対効果を意識し価格体系は「10万円」で設定されている。 - ミッションクリティカルIoTに最適なデータ転送ミドルウェア、セゾン情報が発売
セゾン情報システムズは、IoT(モノのインターネット)向けのデータ連携ミドルウェア「HULFT IoT」を発表した。業務システム向けのファイル転送ミドルウェア「HULFT」をベースに、機器監視や位置追跡、防犯・モニタリング、決済、利用料測定などの「ミッションクリティカル領域」で用いられるIoTのデータ転送に最適化したことを特徴とする。 - “冷やす”を「コト売り」に、パナソニックが冷凍機のサービス化で得たもの
パナソニック産機システムズは、IoTを活用した冷凍機システムにより、サービス化への取り組みを進めている。「モノ」から「コト」へのビジネスモデル変革で、どういう効果があり、どういう難しさがあるのだろうか。 - 「AIoT」を社外に広げるシャープ、強みは音声対話技術にあり
シャープは、AIとIoTを組み合わせた「AIoT」を今後の成長に向けた事業の柱の1つに据えている。「ソフトバンクワールド 2017」の講演に登壇したシャープ IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部長の白石奈緒樹氏は、AIoTを自社製品に応用するだけでなく、社外顧客にも「AIoTプラットフォーム」として広く展開していく方針を示した。 - タイヤを売らずに稼ぐタイヤメーカー、ブリヂストンが目指す変革の目的地
ダッソー・システムズの年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE FORUM JAPAN 2017」の特別講演として、タイヤメーカーであるブリヂストンがデジタル変革をテーマに講演した。 - 製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない
製造業が生産する製品を販売するのでなく、サービスとして提供する――。そんな新たなビジネスモデルが注目を集めている。サービタイゼーション(Servitization、サービス化)と呼ばれるこの動きが広がる中、製造業は本当にサービス業に近くなっていくのか。インタビューを通じて“製造業のサービス化”の利点や問題点を洗い出す。本稿では、サービタイゼーションを研究するペンシルバニア大学 教授モリス・コーヘン氏のインタビューをお伝えする。