国産有機ELの夢をのせて、これから始まるJOLEDの旅路:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(8)(4/4 ページ)
スマートフォン向け、テレビ向け、ともに韓国勢に市場を押さえられている有機EL。かつては有機ELの開発に注力していた日本にとって、印刷方式の有機ELを世界で初めて実現し、量産も始めたJOLEDは最後の希望だ。小寺信良氏が、JOLEDの印刷方式有機ELの可能性と、今後の同社の展開を探る。
JOLEDのこれから
―― 2017年12月から、ソニーの医療用モニター向けの21.6型4K有機ELパネルを出荷しています。こうした製品化というのは、どういうプロセスで進むものなんでしょうか。
後藤 単にパネルができました、採用されました、ということではなく、お客さまとディスカッションしながら、どれぐらいの目標でどういった使い方をするのかといった用途に合わせて、チューニングしていきます。ソニーさんは当社の株主であり、出身母体でもあるので、われわれの開発状況についても開示してることがあって、最初に採用いただくことにつながったというところですね。
―― 医療用モニター向けだと、どういうチューニングを施すのでしょうか。
加藤 医療用の場合、動いている物を表示するというよりは、特にレントゲンやCT画像などのグレースケールのデータを表示して、お医者さんが微妙なコントラストの違いを見分けて、ここが悪いとか大丈夫とかいった判断をします。ですから、特に暗いところからグレーの部分、ここの階調が非常に重要なので、そこの出来栄えを良くするようなチューニングにしています。
―― 21.6型というのは、微妙に有機ELではこれまでなかったサイズですよね。このサイズ感というのは、狙ったんでしょうか。
加藤 われわれの考え方として、既存の市場を置き換える、要するにスマートフォンなりテレビなりの市場に乗り込んでいくというのは、企業規模からすればまだ全然無理なんです。小さいパイロットラインからのスタートで、当然単価も高くなりますので、まずは新たな市場を作っていく。今ないもの、中型から入っていくというのは、会社の設立当初からターゲットとしていたところです。
―― ただ、製造方法としては大型も小型も行けるのがポイントかと思います。次は小型なのか大型なのか、サイズとして攻めていく順番というのは?
後藤 大きい方は、今われわれの持ってる印刷の技術で対応できると思っています。ただ大きい物を生産性高く作ろうとすると、大きなガラス基板を扱える工場が必要になりますので、そこをどういう風に手配していくかが重要です。
小さい方は、もう一歩技術開発が必要になっていきます。それに対しての手当ては今も進んでいるんですけれども、現在は解像度がもうちょっと高いレンジになってきますので、印刷機をもう一段ステップアップするのと、デバイス的な技術をもう一段ステップアップする必要があるかなと思っています。
優先順位としては、どちらのニーズが高いかというのあるんですけれども、大型の方がシフトしやすいのは事実です。
加藤 技術開発の方向性と、ビジネスの方向性というのは別のものではあるんですが、ビジネスということで判断すると、スマートフォン用はサムスンが先行している中、中国のBOEや天馬(Tianma)とかにもどんどん投資が入っていますよね。そんな中、これからやっと事業を始めるわれわれがドーンと行けるかというと、行けるはずもなく。
テレビの方は、RGB蒸着方式で実現できないから白色ELでやってる。理想としてはやっぱり大型テレビでもRGBでやりたいという要望がありますので、そこはわれわれの技術が使える。テレビは量が出ますが大きな投資が必要になりますので、そこはわれわれだけでなくライセンスしたパートナーと組んでやっていくということを検討しています。
―― そのパートナーというのは、日本以外の企業も含まれるのでしょうか。
加藤 大型のパネルを製造できるラインを持っていらっしゃるところが、まず候補になっていくのかなと思います。今こうしたプレイヤーは国外が多いので、そこは国内に限定した動きではないということですね。
ASUSとの提携で事業環境は良好
―― 投資と言えば、2017年の報道では量産に向けて1000億円規模の増資の支援を募るということになっていました。経済紙の書きぶりではなかなか厳しいようにも見受けられましたが、あの話はその後どうなったのでしょうか。
加藤 2017年12月の製品出荷を発表させていただいた際に、量産に向けてラインを増強すべく、外部から約1000億円を調達しますと説明していました※)。その時には2018年3月末を目標にクロージングという形で、投資家さんといろいろお話をさせていただいてたんです。3月末というのなら、今できてなかったら(取材日は3月30日)できてないということなんですけども(一同笑)。
※)関連記事:JOLED、印刷方式の有機ELパネルを出荷開始
実は年が明けて2018年1月の「CES 2018」のタイミングで、台湾のASUSさんと一緒に中型の領域で事業展開していきますということを発表(JOLEDのリリース)しましたら、新たに多くの投資家さんから出資を検討したいというお話をいただきまして。
私どもとしては非常にありがたいことなんですけれども、新たな投資家さんがお越しになったことで、もう少し検討時間を取る必要が出てきまして、その関係で少し時間がかかっています。今のところ2018年度の第1四半期、だいたい6月ぐらいまでの間に完了させようということで、今投資家さんとの最終の条件の詰めをさせていただいているところです。
ちょうどこの取材を行っていた2018年3月30日、JOLEDの第2株主であるJDIは、JOLED株式を51%保有して連結子会社化すると以前から発表していたが、この方針を撤回、子会社化を断念すると発表した(JDIのリリース)。
もともとJDIは「日の丸液晶」として、日本の持つ液晶開発技術が国外流出することを恐れた国が、産業革新機構の資本を投下して作った会社であり、JOLEDもその点では同じ構造である。産業革新機構としては、JDIの液晶ビジネスをうまく育てて、JOLEDという「子」の面倒を見させる目算が狂ったことになる。
とはいえインタビュー中にもあるように、ASUSのプロ用PCディスプレイ向けにパネル供給が決まったことで、投資案件も増えたという。この増資によりプロ/業務用中型ディスプレイが安定供給できるようになれば、会社としては一息ついて次のステップへ向かえることになる。
日本において次のテレビ特需は、2020年の春商戦になるだろう。それまでに大型パネルの製造ライセンスがまとまれば、東京オリンピック・パラリンピックは印刷OLEDで観戦できるかもしれない。ただそのテレビが、国内企業のものとは限らない可能性もある。JOLEDに「日の丸有機EL」の夢を見ていた筆者にとっては、その点が少し残念なところである。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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