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マイケル・ポーター氏が語る、機械から人間の仕事を守るために必要なもの:製造業IoT(3/3 ページ)
製造業のデジタル変革において「人間の能力の強化」が重要だと主張するのが、米国の著名経済学者であるマイケル・ポーター氏である。ポイントとしているのが「認知的距離の短縮」である。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー・フォーラムでの講演の内容をお伝えする。
AR活用で直面する5つの戦略的問い
これらの状況を受け、ポーター氏はAR活用において「企業の競争戦略的に問わなければならない5つの問いがある」と述べる。5つの問いは以下の通りだ。
- どのような機会をもたらすか:ARは企業にどのような機会をもたらすか。それらをどのような順序で追求すべきか
- 製品の差別化:企業は製品差別化にARをどのように活用するだろうか
- コスト効果:ARはどの分野において最もコスト削減に寄与するだろうか
- 社内かアウトソーシングか:ARの設計や導入を主な強みにするために社内の人材を育てるか、それともアウトソーシングや他社との提携で十分だろうか
- コミュニケーションの役割:ARは利害関係者とのコミュニケーションをどのように変えるだろうか
ポーター氏は「今はデジタル変革とされ、技術の進化が著しいが、多くのデジタルの要素は間違った目的で設計されている。『全てが人間が使うものだ』という視点が抜けているからだ。機械は進化しているが、人間の優れた要素は残り続ける。その中で、機械の要素だけの発展が語られて、人間に関する技術の進化が語られてこなかった。人間には制限値がなく柔軟性や革新性、創造性がある。現在の機械の進化と合わせて、人間を進化させることに目を向けなければならない」と語る。
さらに「ARは人間に力を与えるバランサーとなり得る。人間の能力をデジタル変革の世界でも活用することができるようにすることで、より良い世界を作ることができる。どちらかだけでは無理だった世界が融合する世界ができる。その新たな均衡点が見えてきた」とARの意義について強調する。
ポーター氏は「米国での情報に接していると毎日『人間の仕事はなくなる』などの危機感を煽る記事を目にするが、全ての記事が機械およびテクノロジーだけに注目したものとなっている。人間の存在を無視している。ARによりそれをゆり戻すことができればよいと考えている」と述べている。
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