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マイケル・ポーター氏が語る、機械から人間の仕事を守るために必要なもの製造業IoT(2/3 ページ)

製造業のデジタル変革において「人間の能力の強化」が重要だと主張するのが、米国の著名経済学者であるマイケル・ポーター氏である。ポイントとしているのが「認知的距離の短縮」である。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー・フォーラムでの講演の内容をお伝えする。

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機械進化で取り残される「人」の存在と「認知的距離」の問題

 これらのSCP化の動きの中で「別の課題が生まれつつある」とポーター氏は指摘する。「SCPはまだまだ発展する。SCPから大量のデータが生みだされ、全てが分析対象となる中で、人間が処理できるレベルを超えつつある。紙の世界は人間の能力を生かせたがデジタル世界は現状では完全に機械の世界である。その中で人間はどうしていくべきなのか」とポーター氏は課題感を示す。

 ただ、現段階ではAIなど含め機械がどれだけ進化しても「人間には機械でできない能力がある」(ポーター氏)とする。「機械はプログラム通りの作業をやるというのが基本形である。データを基に分析することはできるが、新しいことは認識できない。人間は課題の認識や設定ができ、それに対して判断を下せることが特徴だ。未知のものでも人間であれば何らかの判断を下せる。こうした良い点があるにもかかわらず、現在の機械の情報提供が人間に最適化されていないという点が問題である」とポーター氏は、人間と機械の連携ギャップを課題として挙げる。

 それを象徴する考え方が「認知的距離」の問題である。例えば、現在のナビゲーションシステムを考えてみると、GPSと地図情報によって、地図に最適進路と現在地などを示すことができる。ただ、ドライバーが「正しい交差点で曲がる」というアクションにつなげていく場合、ドライバーはまず実際の風景と地図を照らし合わせて、現在位置と地図上の表記を一致させるなど、脳内で何度も情報変換を行いながら、正しい認知を行う。

 ポーター氏は「そもそも地図やディスプレイは2次元情報であり、実際の空間は3次元である。その現実とデジタル情報のギャップによる情報変換が脳内で何度も何度も行われている。それが“認知的な距離”を生み、時間とコストを生んでしまっている」と強調する。

「認知的距離」を縮めるARの存在

 こうした「認知的距離」を埋める存在として注目されているのが「AR」だというわけである。ARは現実世界にデジタル情報を重ね合わせることが重要である。これによって「人間が何をすべきか」を直接的に示すことができ、認知的距離を縮めることができる。

 ポーター氏は「人間の能力を拡張するARの存在はデジタル変革の第4の波にもなり得る存在である。例えば、ナビのHUD(ヘッドアップディスプレイ)などを考えると、実際に道に進路が示されるために迷う要素は少ない。こうしたAR技術により認知的距離を縮めることで人間の利点をデジタル技術で拡張しながら最適なシステムが構築できる」と意義について述べている。

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ナビのHUDによりARを活用したイメージ。2次元のナビ画面に比べて認知的距離が短いことが理解できる(クリックで拡大)出典:PTCジャパン

 こうしたARによる「認知的距離の短縮」は製造業のあらゆるプロセスに活用できるという。

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デモによりARの価値を訴えるPTCのCEO ジェームズ・E・ヘプルマン氏

 PTCのCEO ジェームズ・E・ヘプルマン氏は「ARの価値は『可視化』『指示・案内』『インタラクション』の3つがある。これに『シミュレーション』を組み合わせることであらゆる製造業の工程で価値を生むことが可能となる。この利点を生かし、開発、生産、物流、マーケティング、アフターサービス、人事など製造業の全工程を改善できる」と述べている。

 具体的には、開発工程ではデザインレビューやコラボレーションなどの領域で全領域の17%にARが活用可能だという。また、生産工程では、保全作業指示や組み立て指示などで活用が可能。さらにアフターサービス領域ではサービスマニュアルの活用や専門家による遠隔支援などがある。

 へプルマン氏は「IoTでもキラーアプリケーションの領域は次々に変化しているが、ARも今後さまざまな範囲に広がるだろう。ただPTCとは現状では製造領域とアフターサービス領域に期待している」とAR活用の可能性について述べている。

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製造業のバリューチェーンにおけるAR活用の可能性(クリックで拡大)出典:PTCジャパン

 既にARの導入事例は数多く存在しているが、導入に当たっては「AR機能」「コンテンツリソース」「開発アプローチ」「マッピング」「ARハードウェア」の5つの軸を考慮する必要があるとへプルマン氏は強調。「5つの軸でそれぞれのレベルに合った最適な選択をしていく必要がある」と述べている。

 具体的には5つの軸の中には以下のような選択肢が存在するという。

  • AR機能:可視化、指示案内、インタラクション
  • コンテンツソース:特定用途向け、他用途利用、リアルタイム
  • 開発アプローチ:ソフトウェア開発、ダイナミックコンテンツパブリッシング
  • マッピング:マッピングしない(非登録)、空間認識、マーカー、3D形状
  • ARハードウェア:スマートフォンタブレット、プロジェクター、ヘッドアップディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイ
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AR活用で考えるべき5つの軸と、組み立て作業を行うことを想定したレベル選択イメージ(クリックで拡大)出典:PTCジャパン

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