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イノベーターをビジネスにどう生かすのか、求められる「出口」の戦略イノベーションのレシピ(2/2 ページ)

日本IBMは製造業向けイベント「IBM Industrial Forum 京都 2018」を開催。同社の製造業向けの取り組みを紹介するとともに、製造業が先進技術を活用してイノベーションを実現した事例などを紹介した。

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デジタル時代のイノベーターの価値

 山口氏が紹介したデジタル変革時代の技術的背景などをベースとしながら製造業はどのような取り組みを進めなければならないのか。エグゼクティブディスカッション「デジタル時代のイノベーター(革新者)の生かし方」をテーマに人材の活用を切り口としながら、デジタル時代のイノベーションの創出手法について取り上げた。

 登壇したのは、日本IBM GBS事業本部 戦略コンサルティング&デザイン統括 コグニティブ・イノベーションセンター 統括エグゼクティブ 的場大輔氏と、パナソニック コネクティッドソリューションズ社 イノベーションセンター スーパーバイザー 工学博士(元理事・技監)の大嶋光昭氏である。

 的場氏は、日本IBMのコグニティブ・イノベーションセンターに勤務すると同時に大学院にも通うというポートフォリオワーカーである。コグニティブ・イノベーションセンターは日本IBMの出資により国立情報学研究所が2016年に設立。日系企業23社の幹部を集め、5つの新しいデジタル・サービスモデルを創出している。

 大嶋氏は、シリアルイノベーター(大企業の中で何回もイノベーションを行っている革新者)とされ、独自の発明手法で10件の技術を事業化した実績がある。特許件数は1300件、特許ライセンス収入380億円に及ぶ。さらに「出口戦略」に基づき4つの新規事業を起こし、パナソニックにもたらした累計営業利益は3000億円、売上高に換算すると6兆円になるという。この2人が、イノベーター(革新者)をいかに生かしてビジネスに結び付けていくかという点を話し合った。

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「デジタル時代のイノベーター(革新者)の生かし方」をテーマに対談する的場氏(左)と大嶋氏(右)

出口戦略で成功した「手振れ補正技術」

 現在、デジタル時代の到来により製造業の存在そのものが問われている。ビジネスモデルなどの変革を迫られる中、日系企業の研究開発自体も過渡期を迎えている。その成功へのカギを握る1つの方向性として、大嶋氏は「(研究所に所属していた)35年前は技術だけを研究開発していればよかった。しかし今は企業の利益率が下がってきたこともあり、研究所といえども出口(販売やビジネスモデル)のイノベーション(発明)が必要である」と考えを述べる。

 この「出口のイノベーションの成功例」として大嶋氏は「手振れ補正機能の発明」を挙げる。今ではデジタルカメラやビデオカメラなどさまざまな機器に搭載されるようになった「手振れ補正機能」だが、もともとのこの発明の入口は1980年のジャイロセンサーの発明にあった。

 ジャイロセンサーは最初はカーナビに搭載することを考えて開発したという。しかし、それほど採用が広がらなかった。ただ、友人からの「ビデオカメラが手振れでいい映像が撮影できない」と言われたことがブレークスルーにつながったという。この「手振れ」の対策としてジャイロセンサーを使えないかという発想に至り、その後6年をかけてジャイロセンサー事業を復活。1988年に手振れ補正機能を搭載した世界初のビデオカメラを発売することができたという。

 2004年には同じく、手振れ補正機能搭載のデジタルカメラの販売も開始した。これにより、最後発だったデジタルカメラのシェアを大きく伸ばすことに成功。関連製品の営業利益は1200億円以上に達したという。大嶋氏は「入口(技術)だけのイノベーションを求める技術者は生き残れない。入口と出口の両方を意識して研究開発を進めることで、技術を生かすタイミングを見極めることができ、それにより一桁大きい利益を上げることができる」と入口と出口の両面の重要性を強調した。

イノベーターの発掘と育成の重要性

 大嶋氏の例のように、企業に大きな利益をもたらすイノベーターだが、日本の企業ではさまざまな事業分野で連続的に革新を起こすことを許された技術者は、わずかな人数しかいない。バブル崩壊以降の「失われた20年」の間に収益が見込めない新規領域での研究開発費用は激減したことから、イノベーターとしての伝統や技術伝承なども分断されているという。

 大嶋氏が研究所に入所した当時は「他社がやっていないことをやる」というミッションを受け、さまざまな世界初の研究開発に挑戦していた。大嶋氏自身は、入所した時はイノベーターではなかったが「他社と同じことをすることは許されなかったため、周りの人たちに影響をされて、いつの間にかいつでもホームランを狙うようになった。こういう取り組みは成功する確率は2割程度だが、当時はイノベーターの人数が多いのでどんどん新しい成果が生まれた」と振り返った。

 そして、現在は「ノウハウやスピリットを伝承する目的で、社内でイノベーターを復活する取り組みを行っている」とし、デジタル時代の製造業におけるイノベーターの発掘と育成策の重要性を訴えている。

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