協働ロボット、ロボットシステムに残された課題と未来:協働ロボット(2/2 ページ)
協働ロボットを現場で活用するのにどのような工夫が必要か――。ロボット技術の総合展示会「2017国際ロボット展」では、ロボットメーカーおよびユーザー企業によるパネルディスカッション「ロボットフォーラム2017」が実施され、協働ロボットの意義について語った。
協働ロボットが実現する労働環境の向上
ファナックの稲葉氏は、新たに信頼性評価棟を建設しロボットの信頼性向上を進めている様子を紹介した。評価棟には水没試験室、温度可変室、ミスト試験室などを設けて、あらゆる環境でのロボット稼働状況の把握に努める。ファナックでは2010年頃から協働ロボットの開発を進めており、現在は深層学習アプリケーションを搭載したロボットの開発を進めている。「高いレベルでの深層学習を実現したい。2018年には発売する考えだ。人と同じようにロボット同士、また人とロボットが会話できるような世界を実現したい」と述べた。こうした世界を実現する基盤として、同社ではオープンプラットフォームの「FIELD system」の展開なども進めている(※)。
(※)関連記事:現場志向のIoT基盤「FIELD system」が運用開始、稼働監視などを年間100万円で
KUKA Roboterのランパ氏は「『人々の働く環境を向上する』というのが、われわれの企業理念だ。高齢化や労働人口の減少の中で、ロボットはより良い方法で、労働者が引退まで働けるにようにする。例えば、フォルクスワーゲンでは、高齢化する中で当社と協業し、ロボット技術を活用することで高齢労働者の働く環境の向上に努めてきた」と実例を挙げて同社の取り組みを紹介した。また、スマート製造への成功への鍵として、適応性、視覚、ディープラーニング、モビリティ、簡便、接続性、協調・協業、感性の8つを上げており、これらの8つの鍵が全て組み合わさることで、スマート製造が実現するとしている。
不二越の国崎氏は、働く職場の現状を「人手不足で、猫の手も借りたい」としている。その中で、自動化は上流工程から下流工程へと進展しており、現場でのロボットに対するニーズも変化しているとする。
「従来ロボットには、生産性、信頼性、保全性などが求められた。ロボットの語源である苦役、労務という言葉の通り、繰り返しの単純・重筋作業、柵の中で黙々と作業を行うイメージが強かった。しかし、今後は柔軟性、親和性、自律性を伴い、人に代わり、人を超えるパートナーとして共存、協調して作業を行い、その中身も複雑・多様な作業を柔軟にこなすものへと変化する」と述べた。
ただ、ロボットの導入を阻むものとして「ロボットだけでは何もできない(単なる腕で、手や目、耳、鼻などが無く、アプリケーション、システムインテグレーションが必要となる)」「誰もが使えない(専門知識・技能が必要)」「基本的に危険だ(リスクマネジメント、安全装置が必要)」という3つのポイントがあるという。これらに対して「ロボットが目的の仕事ができるように、ロボットメーカーは必要なツール、機能、システムを準備することが重要だ」と国崎氏は述べる。さらに、操作に関しては、直接触って直感的に操作したり(ダイレクトティーチ)、ジェスチャーで操作したりする機能(モーションキャプチャー)など、より安全に使えるような支援する操作方法もあるとしている。
安川電機の小川氏は、モノづくりの自動化推進における現状の課題として、自動化領域が広がらない原因を「モノづくりの多様性に対するプロセスのフレキシビリティが低い」と指摘している。この背景には安全性の確保ということで安全柵を設置しなければいけないという規制があり、フレキシビリティと安全柵の2つを埋める答えが出ないということがある。
その中で、同社ではプロセスのフレキシビリティを向上させ、製造現場の進化を目指す取り組みとして「i3(アイキューブ)-Mechatronics」(同社のソリューションコンセプト)を提案し、デジタルデータ化(エッジコンピューティング)し、モノづくりの生産性、機能性の進化に取り組む方向性を示した。
危険性への対応がユーザー企業まかせ
続いて、ロボットのユーザー企業の立場で、トヨタ自動車の大倉氏がロボットシステムの課題と今後の期待を述べた。
大倉氏も「労働人口の減少に対してロボットシステムに対する技術への期待値は大きい」という。トヨタ自動車でのロボットの導入状況は、スポット溶接が半数以上を占め、アーク溶接、塗装、その他(組み立て、鋳造、鍛造)などが続いているという。今後は、組み立てなど人が実施している作業(柔らかい部品)へのロボット活用を期待しているという。最近では協働ロボットの導入も進めており、現在、数十台から数百台レベルで稼働している(全体での導入数は2万2000台)。
自動車部品は固いものや鋭利なものが多く、挟まれ、せん断、切創などの事故が起こる可能性があるため、これらを避けるための方法の確立などが課題となっている。ロボットシステム全体でまだまだリスクが多く残り「現状ではこれらの対応がユーザー企業側の責任となっている」(大倉氏)。そのため「これらに対応するのに時間がかかり、導入のスピードが遅くなっている一因となっている」と大倉氏は指摘する。さらに、同社における主なロボットの故障部位としてはモーターが39%と最も多く、ハーネス15%、減速機14%、CPU10%などの順となっている。大倉氏は「ユーザーとしては信頼性をより高めていただくことをお願いしたい」と要望した。この他、自動車製造におけるIoT活用を進めるうえで、信頼性と保全性向上を土台にして生産性確保に取り組む方針を示していた。
ニトリホールディングの松浦氏は「物流ビジネス業界でも労働人口の減少、高齢化などの問題が顕著だ」と述べる。そのためロボット活用を強化している。同社の通販発送センターでは、ロボット導入前は作業者に長距離歩行(1日2万歩)を強いていた。さらに人材の確保や在庫保管面積の限界に達していたなどの課題を抱えていた。これらを解決すべく、現在はテクノロジー(インフォメーション・ロボテックス)のほか、マーケティング、ヒューマンリソースの3点を強化して、流通ビジネスの課題に対応しているという。
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