第4次産業革命で「部品メーカー」に与えられる3つの選択肢:いまさら聞けない第4次産業革命(19)(3/3 ページ)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説していきます。第19回となる今回は、部品メーカーにとって第4次産業革命でどういう選択肢が生まれるのかについてまとめたいと思います。
日本の部品メーカーに残された2つの道
自社でクラウド基盤を抱えてデータを確保し、それをベースに新たなビジネスを生みだすことは、理想的ではありますが、幾つかのリスクを抱えており、日本の部品メーカーにとってはすぐに実現するのが難しい面もあるかもしれません(※)。
(※)関連記事:製造業のサービス化、考えなければならない2つのリスクとは?
全てを自社だけで回すというのはグーチョキパーツにとっては難しいです。そのもっと手前でできることってないんでしょうか。
あとは従来のモノづくりをベースにした場合でも、2つの道があるように思うわ。1つは、この第4次産業革命時代にふさわしい部品の姿とは何かを考えて、それに合わせた機能を組み込んでいくことね。
第4次産業革命で新たな価値を得るためには、IoTなどによりデータを収集し、AI(人工知能)などにより分析し、知見を獲得し、さらにそれを現実世界にフィードバックするというCPS(サイバーフィジカルシステム)によるサイクルが必要になります。この中でデータを収集するという部分は「モノ」が担います。すなわち、部品メーカーであっても自社製品により、稼働状況や周辺環境のデータを取得する「センシング技術」とデータを送る「通信技術」をどう組み込めるのかという点は、検討すべきだといえるわけです。
例えば、モーターメーカーのオリエンタルモーターでは、従来はサーボモーターなどの稼働データの取得はモーターの回転位置の把握のみでしたが、トルクや温度、積算走行距離などを取得できるようにした「αSTEP AZシリーズ」を展開しています。このデータを生かすことにより、デバイスレベルでの予防保全への貢献を訴えています。
また、電源メーカーのコーセルでは、スイッチング電源に通信機能を内蔵し、電源関連情報を遠隔監視および制御できる技術を提案しています。このように自社の製品に新たなセンシング機能や通信機能を加えるだけで、新たな価値を提供できるようになるわけです。
さらに付け加えるとすると、メーカーは自社製品を通じてAIに自由に学習させることができるという大きな利点があるのよ。
ど、ど、どういうことですか。
現在活用が進んでいるAI関連技術ですが、活用するには「学習」が大きな負担となります。AIおよびAIで生成されるアルゴリズムを活用することで、従来は細部まで人手で設定していた作業を、ある程度機械に任せられるようになる利点がありますが、この学習をどう行い、正しいアルゴリズムを生みだすのかが、AI活用の大きなカギを握っています。
部品の種類にもよりますが、センシング機能を加えた自社の製品をさまざまな環境で使用する試験を行い、ある程度の学習データやアルゴリズムと一緒に部品を提供することが、新たな付加価値を生む可能性があります。
自社でデータの運用をしなくても、自社製品に関わるデータやアルゴリズムを合わせて提供することで、従来とは違うビジネスを展開できる時代が来ると思うわ。
分野によっては「何もしない」も1つの選択肢
最後の1つは何ですか。
もう1つは「何もしない」ということね。モノ単体としての競争力が維持でき、市場規模も確保できる場合は、あえて新たにIoT化を進める必要はないかもしれないわ。ただ、この場合、競合がビジネスモデル変革を仕掛けてきたときでも影響を受けないということが精査できた場合に限るけれど。
IoT活用によるビジネスができないと将来的に生き残れないような話を今まで聞いてきたんですけど……。
全てが白、全てが黒というようにはいかないのが世の常よ。遠い将来には全てがIoT化していくのかもしれないけれど、当面は過渡期が続くわ。意味のあるところでうまくIoTを組み合わせたビジネスを展開するのが正解だと思うの。
さて今回は、特に部品メーカーについての第4次産業革命に対するアプローチについてまとめてみました。個人的には第4次産業革命の動きは部品メーカーにこそ大きなチャンスだと考えています。「自社でデータサイクルモデルを作る」「データ活用しやすい機能を付加し、データモデルを販売する」「何もしない」という3つの選択肢の中から各製品分野で最適な選択をしてもらいたいと考えます。
次回はIoTが品質にどう活用できるのかという点について説明したいと思います。
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