気遣いと工夫が勝負の福祉車両開発、「高齢者を支える人の負担を減らしたい」:車両デザイン(2/2 ページ)
高齢者の介護だけでなく身体の不自由な人にも向けてさまざまなタイプがある福祉車両。量産モデルのような目新しい派手な新技術はないが、具体的な困り事や苦労を踏まえた配慮が光る。
雨の日の負担や高齢女性の苦労を減らす
国際福祉機器展には、最新の福祉車両ラインアップとなる「ノア/ヴォクシー/エスクァイア」のサイドリフトアップチルトシート車(2017年10月発売)、多人数の送迎での利便性を高めた「ウェルジョイン」(2017年9月発売)、車いすのワンタッチ固定装置を採用した新グレード(2017年12月発売)などを出展した。これらのラインアップには、具体的な負担の事例を踏まえた改良を施した。
サイドリフトアップチルトシート車は、車外へのシートの張り出しを従来比半減の55cmに抑えた。一般家庭の駐車場や外出先の狭いスペースでも乗り降りすることが可能になったという。従来は、シートが車外に1m以上張り出すため、外出先では専用の駐車スペースに止まらなければならず、自宅の駐車場の幅を広くする工事も必要だった。
シートが張り出す距離が減ったことで、雨の日に傘をさしながらシートも乗員もぬれずに乗り降りできるという。従来のシートでは、乗員に傘をさすとシートがぬれるのを避けられなかった。身体が不自由な乗員の立ち上がりやすさにも配慮。シート張り出し時のヒップポイントを15cm高くしながら座面を前下がりにし、膝にかかる負担を軽減する。
車いすのワンタッチ固定装置は、高齢かつ女性の介護者が多いことに対応して開発したものだ。従来の固定装置は作業が煩雑だった。専用ベルトの取り付け、スロープを上るためのベルト電動アシストの操作など、10以上の手順がある。簡単に固定できるようにすることで、高齢女性の介護者でも使いやすくした。
ワンタッチ固定装置は、車両とセットで購入できる新開発の電動車いすにのみ対応している。車いす下部にバーを配し、フロアの固定装置はそのバーを把持する構造だ。従来の固定装置は車いすの機種やタイプを問わず乗せる目的で、手順は複雑だが汎用(はんよう)性の高い仕組みとなっている。そのため、従来の固定装置の車いす仕様車もラインアップに残る。
中川氏は「車いすの構造とワンタッチ固定装置は特許は取得していない。自動車メーカー他社や車いすメーカーに向けた提案でもある。この形式が普及すれば、路線バスなども含めて車いすを乗せる負担が少なくなるのではないか。路線バスの運転手にとっても、車いすを乗せて固定する作業は負担が大きいからだ。車いすの人も気兼ねなく出掛けられる」と開発の狙いを説明した。
ウェルジョインも、雨や雪の日の負担を減らす配慮で開発した。3列シートのうち2列目の左側1人分のシートをなくしたレイアウトとなっている。これにより、シートレイアウトを変更する操作なしに3列目の乗員が乗り降りできる。これは、身体の不自由な人や高齢者の介護だけでなく、さまざまな用途に向けたものだ。
「路線バスが廃止された地域で、ミニバンを使ってボランティアドライバーが運転する乗合バスが走っている例がある。路線バスの赤字を自治体が肩代わりするのは難しいし、ドライバーの人件費も負担として大きいのでボランティアに頼らざるを得ない。通常のシートのミニバンでは、3列目の乗員を降ろす度にドライバーがシートアレンジの操作をしなければならないのが負担になっている。ただでさえボランティアが集まりにくい中で、悪天候の日にもそのような苦労が伴うのを解決できないかと考えた」(中川氏)
中川氏によれば、販売店からは、地域の乗合バスの車両としてだけでなく、旅館やホテルの宿泊客の送迎など広く需要が見込めると反応があったそうだ。
福祉車両の海外市場は不透明
高齢化は日本だけでなく先進国各国の共通の課題でもある。海外での需要をどの程度見込めるか、中川氏に尋ねてみると「ニーズがあるのは間違いないが、市場として立ち上がる兆候はまだ見えてこない」という答えが返ってきた。
その理由として、日本の高齢化率が群を抜いて高いことを挙げた。「現在の日本の高齢化率が28%で、2位のイタリアが21%と差が開いている。人口が多い中国はどうかというと、日本の高齢化率に追い付くには30年かかるといわれている」(中川氏)。また、日本特有の介護保険制度が法人での福祉車両の導入を後押しした点も海外とは環境が異なるという。
世界的に見ても高齢化率が高い日本でも個人向けの福祉車両の市場は発展途上にある。海外で日本と同等以上の市場となるにはまだ時間がかかりそうだ。しかし、台数規模が今後拡大していくことで、より自由な福祉車両の開発や価格低減が進み、移動の自由が広がっていくことに期待したい。
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