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気遣いと工夫が勝負の福祉車両開発、「高齢者を支える人の負担を減らしたい」車両デザイン(1/2 ページ)

高齢者の介護だけでなく身体の不自由な人にも向けてさまざまなタイプがある福祉車両。量産モデルのような目新しい派手な新技術はないが、具体的な困り事や苦労を踏まえた配慮が光る。

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トヨタ自動車の中川茂氏

 「高齢化が進むということは、高齢者が増えるだけではなく、支える側の負担も増えていくということだ」(トヨタ自動車 CVカンパニー CV製品企画 ZU2 主査の中川茂氏)

 “高齢者を支える”という言葉から、まず連想できるのは介護や年金だろう。介護施設や病院との往復が日常的に必要になる。また、路線バスの廃止によって公共交通がなくなった地域で新たに乗合バスなど移動手段を提供するのも、支え方の1つだといえる。高齢者を支える場面ではクルマの出番が多く、量産モデルを自動車メーカー側で改造した福祉車両が活躍している。

 「第44回 国際福祉機器展」(2017年9月27〜29日、東京ビッグサイト)への出展に合わせて、トヨタ自動車の中川氏に高齢者を支える側の負担を減らす福祉車両の開発について聞いた。

福祉車両の現状


福祉車両は介護施設や病院だけでなく一般家庭でも使われている(クリックして拡大)

 福祉車両は、高齢者の介護だけでなく身体の不自由な人にも向けてさまざまなタイプがある。助手席や後部座席への乗り降りをサポートするシートを採用したモデルや、車いすのまま乗車できるようにしたミニバンが代表的だ。身体の不自由なドライバー向けに、乗り降りしやすくし、手もしくは足が不自由でも運転できる補助装置を後付けした車両の設定もある。介護事業者や病院に限らず、個人にも購入されている。

 ベース車両に占める福祉車両の生産台数は1割にも届かず、ミニバン「シエンタ」では数%程度にとどまるという。台数の少なさに加えて、シートの変更やスロープの追加でコストは高くなるが、ベース車両の開発段階から福祉車両の仕様を反映させて価格上昇を抑える取り組みを進めている。

 例えばシエンタの現行モデルは、中川氏がベース車両のチーフエンジニアの粥川宏氏にかけ合い、生産ラインでのスロープの組み付けや車いすでの乗車を織り込んだ設計とした。シエンタの先代モデルはベース車両と車いす仕様車の価格差が46万円だったが、現行モデルでは価格差が30万円前後まで縮まった。

 「シエンタの開発で車いす仕様車の要求を全て飲んでくれたのは、粥川さんの人が良いからだ。本来なら、台数が少ない福祉車両のために量産車の開発を変更するのは難しいし、福祉車両を開発する側としても意見を主張しにくい。もし、福祉車両の台数が1割を超えれば、量産モデルの開発に福祉車両の仕様を反映しやすくなる。一方的なお願いにならないためにも、量産仕様にもメリットのある要望を出していきたい」(中川氏)

個人ユーザーへの普及は途上

 福祉車両の個人ユーザーの傾向をみると、介護が必要な高齢者のいる家庭よりも、身体の不自由な人向けに浸透しているという。トヨタ自動車の推定では、身体の不自由な人では普及率が1割程度なのに対し、家庭での介護向けには1%にとどまる。普及に偏りがあるのは「身体の不自由な人は通勤や通学で外出する目的があるが、高齢者はあまり出掛けなくなってしまう。また、福祉車両が必要になる期間を考えて、ベース車両よりも高い福祉車両を購入するか、福祉車両に合わせた車庫の改造で費用を出せるかという点も悩みどころになるようだ」(中川氏)。

 介護事業者など法人が購入する電動リフト仕様のハイエースは台数が多く、中古車が流通しているが、家庭で利用する福祉車両は普及率が低いため中古車市場としては立ち上がっていない。「通常のリース期間よりも短期間で、必要な時だけ利用したい人に向けたリースがあればと個人的には考えている。中古車として流通する将来を見越して、スロープなどに傷がつきにくくしたり、メンテナンスフリーに近づけたりといった対策も必要になる」(中川氏)。

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