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自動化に遅れたカシオ計算機が描く、現実的な「スマート工場」構想製造業×IoT キーマンインタビュー(3/3 ページ)

カシオ計算機は、新興国の人件費高騰や人手不足などが進む状況を踏まえ、生産革新に取り組む。ロボットを活用した自動化を推進するとともに、工場間を結んだスマートファクトリー化にも取り組む。同社 執行役員 生産資材統轄部長の矢澤篤志氏に話を聞いた。

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タイ工場の組み立てラインを自動化

MONOist 組み立て生産の自動化については、どのような経緯で取り組んだのですか。

矢澤氏 中国やタイでも人件費の高騰が加速しており、将来的に人手による労働集約型生産体制が収益性に見合わなくなるのが見え始めている。さらに継続的に工場での人材の離職率は高止まりしており、人が離れることによる品質の維持が大変だという状況があった。自動化領域を拡充し、人による影響を低減することは収益性の面、品質の面からもより重要になってきていた。

 従来は、組み立て生産の領域では、ほとんど自動化が進んでおらず、時計での生産で一部活用していたくらいだったが、先述したように全社的に自動化を推進していく取り組みの中で、新たにタイ工場の関数電卓において自動化生産ラインを稼働させた。これは生産技術センターなども協力しつつ、東京都羽村市の羽村技術センターで設計・開発しタイ工場へ輸送した。2017年8月からまずは1ラインで稼働させたが、年度内に3ラインを稼働させる計画である。

 基本的には人が行っていた作業を簡易なロボットを用いてそのまま置き換える形で自動化に取り組んだ。時計の自動化生産ラインのノウハウを参考にしたが、今後は自動化に配慮した設計などにも取り組む必要がある。生産技術センターをハブとしてさまざまな自動機や設計を含めたノウハウを水平展開していきたい。

※)関連記事:スマート工場化の第一歩、カシオタイ工場で自動化ラインが稼働

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タイ工場に導入した自動化ライン(クリックで拡大)出典:カシオ計算機

 さらに、自動化することにより機器を通じて、生産情報の取得が可能となるため、自動化ラインの生産情報を取得し、2017年秋には通信経由で情報共有できる仕組みを構築する計画である。「カシオスマート工場構想」としたスマート工場プロジェクトを現在推進中だ。

「カシオスマート工場構想」の推進

MONOist 「カシオスマート工場構想」とはどういう取り組みですか。

矢澤氏 自動化した製造装置から生産情報を取得する「生産のIoT(モノのインターネット)活用」に向けた取り組みである。IoTプラットフォームを新たに導入し、各工場で生産ラインから収集した生産IoTデータをサーバに収集。その後山形カシオのIoTサーバにこれらの情報を通信経由で収集し生産情報を一元的に管理できるようにする。ここで集まってきたデータを汎用AI(人工知能)エンジンによりデータ分析し、得られた知見を各生産ラインなどにフィードバックする仕組みを作る方針だ。山形カシオのマザー工場化や自動化ラインの拡大などもこれらのスマート化への1つの布石であるともいえる。

 現在は新たなIoTプラットフォームの接続実験を行うとともに、AIエンジンの開発などを推進しているところだ。IoTプラットフォームは外部から導入するつもりだが、AIエンジンについては、オープンソースライブラリである「Chainer」や「Caffe」などを活用し社内で開発する計画だ。山形カシオには各種設備のデータやノウハウなど20年分の生産に関するビッグデータが残されており、技術者などもそろっているため、実現可能だと考えている。

 タイ工場とは2017年10月頃にはデータ連携が可能なようにし、国内での生産情報の集中管理と工場見える化を実現する計画である。その後、中国の中山工場とも連携できるようにする。

 これらの情報の一元化が終わった後、これらのデータを生かし予兆診断や品質異常予測を実現できるようにする。基本的なシステム構築は2018年初旬には実現し、2018年度には一部で実装できるようにしていく計画である。将来的には人手に頼る官能検査などをAIと機械化で置き換えられるようにしていくことなども考えている。

「スマート工場化は段階的に進めていけば難しくはない」

MONOist スマート工場化にはさまざまな課題があり進めることが難しいとの声もありますが、実装のペースが非常に早いようにも見えます。

矢澤氏 日系製造業にとって工場内でさまざまなデータを取るという文化は以前から存在し、それらのデータを収集し連携させるところが課題としてあるだけだ。全てを一気に進めると難しいが、段階的に進めていけば決して難しいことではない。見える化の領域については、そんなに大きな障壁なく到達できるのではないかと考えている。

 例えば、カシオ計算機では、「スマート工場構想」の第1ステップとして、IoTプラットフォームの導入とその上で作動する設備のリモート集中管理を位置付けている。そしてこの発展形として予兆診断や不良予測などがあるという仕組みだ。前提として、山形カシオのマザー工場化や工場の自動化領域の拡大があったわけだが、これらの必要な要件がそろったところを、順番に進めていくことが重要である。1つ1つ進めて実績が出てくれば次のステップではさらに新たな可能性が広がると考えている。

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