コネクテッドカーがもたらす自動車データ流通の衝撃:TU-Automotive Detroit 2017レポート(3/3 ページ)
コネクテッドカーによって自動車データが流通する未来に向けて、転換期を迎える自動車業界。米国ミシガン州で開催された「TU-Automotive Detroit 2017」のレポートを通してその激動をお伝えする。次代のアマゾン、ウーバーといわれる、自動車データ流通で注目を集めるベンチャー・Otonomo CEOのベン・ボルコフ氏へのインタビューも行った。
不可能を可能にしたOtonomo
一方で、自動車メーカーがデータを出したがらないという話をよく耳にする。しかしその壁を突破した企業がいる。イスラエル発のベンチャー企業・Otonomoだ。筆者は以前よりこの企業に注目していたが、今回ようやく同社CEOのBen Volkow(ベン・ボルコフ)氏にインタビューする機会を得たので紹介したい。
まずOtonomoという企業だが、自動車メーカーなどが収集する自動車関連データを取りまとめて第三者に販売するというマーケットプレースを展開している。第三者は、このデータを購入することでドライバーの特性を把握したり、自動車向けのアプリを作成したりすることができる。
Otonomoは、データを自動車メーカーなどから直接提供を受けているため、自動車側に何かしらの機器などを接続する必要がない点が大きな特徴だ。なお、販売されたデータから得られた収入は、Otonomoと自動車メーカーとの間でレベニューシェアを行っており、その比率は公開できないとするものの「各社とも同一比率」とのことだ。
現在データの提供を受けている自動車メーカーは9社。コネクテッドカーの総台数は「200万台に上り、2017年末には500万台に達する見込み」だという。提携自動車メーカーについては「公表している会社はダイムラー(Daimler)のみで、それ以外については教えられない。日本の自動車メーカーについても協業しており、現在パイロット中の企業もある」としている。
ではどのような自動車関連データが収集できているのか。「GPS、燃料、オイル、バッテリー、加速度、スピード、シートベルト、エアバッグ、ラジオなど」を基本としたさまざまなデータで、種類も数も自動車メーカーによって異なる。「最も少ない場合で20種類、多いところで500種類のデータが提供される。データの種類が多いのはドイツ系の自動車メーカー」だそうだ。こうして収集されたデータのフォーマットは各社により異なるが、Otonomoはこれらを統一化して提供している。
Otonomoが提供する自動車関連データを活用してサービス展開する第三者は80社にのぼり、「現在もその他多くの企業と交渉中」だそうだ。これらの企業には「駐車場、スマートシティー、政府、金融、通行料金、修理工、ディーラー、保全サービス、ヘッジファンドなどが挙げられるが、他にも部品メーカーや小売業など」が購入しているという。多くの日本企業もOtonomoに注目しているようで、「大手通信事業者やIT企業、商社などからもアプローチがあった」としている。
自社のデータや取り組みを公開したがらないといわれている自動車メーカーから、なぜデータの取得に成功したのか。それには「プラットフォーム構築にあたり必要な要素は何かについて非常に長い期間をかけてさまざまな企業からいろいろな話を聞いたからだ」とVolkow氏は話す。
同氏は「例えば、自動車メーカーが必ず最初に言うのが“プライバシー”。だから、プライバシーを守る機能が必須であると理解した。その後、データは自動車のVIN(車両識別番号)に応じてインデックス化されているという事実を知った。一方で、サービス提供者は、データがVINごとにインデックス化されていることを好まないことを学んだので、それを統一化する機能が必要であることが分かった。このような話し合いを重ねて、どのような技術が必要かを学んでいった。同時に、どのような企業が自動車から収集できるデータを必要としているのかを調査した。この結果が面白かった。仮説では、保険会社やスマートシティーだと思っていた。しかし、調査を進めるうちに、徐々にそれ以外の企業もデータに関心があることを知った。そして、データを提供したい人、データを利用したい人がいることを把握すると、今度はデータマッチングをどのようにするかを考えた。このようにして、かなりの時間を費やして、どのパラメータのデータであれば需要も供給もあるかを的確に理解した。自動車メーカー各社はデータを出すことを心配していた。しかし、話し合いを重ね、何に対しためらっているのかを的確に理解し、その解決に努めた」(Volkow氏)と述べ、長期にわたる辛抱強い交渉について説明した。
現在のOtonomoのステータスについて、「通常の店舗もそうだが、オープン時はどの範囲の商材をどの程度そろえなければならないか分からず、その検討に時間を要する。しかし、いったんオープンすると急速に伸びる。アマゾン(Amazon)やウーバー(Uber)もマーケットプレースだが、これらの企業もそうだった。われわれは、この“急速に伸びるポイント”に差し掛かっている。現在(当社がデータを得ている)コネクテッドカーの台数は200万台で、2017年末には500万台に上る見込みだ。この当たりで、“急速に伸びるポイント”に到達すると見込んでいる。間もなく爆発的に普及するだろう」と、Volkow氏は自信を見せる。
日本市場については、「われわれは、北米及び欧州でビジネスをスタートした。しかし、現在北米で協業している自動車メーカーから、日本でもやってみたいという話がきている。それ以外にも通信事業者や保険会社からアプローチがあった。そこで、最近では日本市場への参入を進めるためのパートナーを探しているところだ。日本はわれわれにとって、戦略的かつ興味深い新たな市場だ」(Volkow氏)として意欲を見せる。
このインタビューの間にも、何社もの自動車メーカーや銀行などが間に割って入り、Volkow氏との会話や名刺交換を求めてくるほどの人気ぶりだった。
IoT時代に入り、近年、データ流通プラットフォームへの期待が高まっている中、各社がデータ収集に苦戦している。この中で、Otonomoは「自動車」という切り口で世界の注目を浴びている。そして、成功事例を携えながら日本に上陸し、日本市場を切り開く日も近いのかもしれない。
筆者プロフィール
吉岡 佐和子(よしおか さわこ)
日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「CES 2017」は自動運転車と人工知能のユートピアだった
2011年からモーターショー化してきた「CES」。2017年のCESは、ついに「自動運転車と人工知能のユートピア」となった。 - 自動運転車と5Gがもたらす「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」
2020年を目標に商用化を目指す自動運転車と5G。両者への期待が相まって、自動車業界や通信業界の間でさまざまな「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」が生まれている。自動運転車と5Gが交錯した「Mobile World Congress(MWC) 2017」の展示を中心に、それらの動向を考察する。 - 新たな競争を生み出す「移動のサービス化」、5GはV2X通信の課題を解決するか
2020年を目標に商用化を目指す自動運転車と5G。両者への期待が相まって、自動車業界や通信業界の間でさまざまな「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」が生まれている。「Mobile World Congress(MWC) 2017」レポートの後編では、「移動のサービス化」と「V2X通信」のエリアにおける動向を紹介する。 - IoTでつながるクルマの未来――コネクテッドカーに向け電機業界がなすべきこと
今後の製造業の発展に向けて必要不可欠とみられているIoT(モノのインターネット)。本連載では、IoTの現在地を確認するとともに、産業別のIoT活用の方向性を提示していく。第2回は、つながるクルマ=コネクテッドカーとしてIoT端末の1つになる自動車を取り上げる。 - トヨタのコネクテッド戦略は3本の矢、「IoT時代の製造業の在り方を切り開く」
トヨタ自動車は、東京都内で会見を開き、同社のコネクテッド戦略を説明。2016年4月に新たに発足したコネクティッドカンパニーのプレジデントを務める専務役員の友山茂樹氏は「IoT時代の新しい製造業の在り方を切り開くため、モビリティサービスのプラットフォーマーになる」と強調した。 - ルノー日産がコネクテッドサービス基盤を共通化、約1000人の組織で開発も強化
ルノー・日産アライアンス(ルノー日産)がコネクテッドカーやモビリティサービスの方向性について説明。責任者のオギ・レドジク氏は、ルノー、日産、インフィニティ、ダットサンなどルノー日産傘下の全てのブランドで、コネクテッドカーに必要なプラットフォームを共通化する方針を打ち出した。