「CES 2017」は自動運転車と人工知能のユートピアだった:CES 2017レポート(1/4 ページ)
2011年からモーターショー化してきた「CES」。2017年のCESは、ついに「自動運転車と人工知能のユートピア」となった。
誤解を恐れず「CES 2017」を一言で示すならば「自動運転車と人工知能のユートピア」であった。
さかのぼれば2011年1月、フォード(Ford Motor)が、その翌週にデトロイトで開催される「北米国際自動車ショー」ではなく、家電見本市であったCESで新車を発表したことから始まる。また同年、アウディ(Audi)はNVIDIAの「Tegra2」の自動車への採用を発表、モバイルの技術を採用しクルマの部品をモジュール化することで開発スパンの短縮に着手した。
あの時からCESのモーターショー化が本格化し今に至る。当時、駆け出しだった筆者のNVIDIAに対する印象は、ゲーム向けチップベンダーだった。しかしアウディの発表に触れた際、将来NVIDIAはクルマ向けチップベンダーとして躍進するとの確かな予感があった。あれから6年。筆者の予感が現実のものとなり、CES 2017の基調講演をNVIDIAが飾った。
NVIDIAの基調講演から透けて見えるチップベンダーの勢力図
マイクロソフト(Microsoft)がCESから撤退したのち、長年同社が務めていた基調講演の枠をクアルコム(Qualcomm)が引き継いだ。その後インテル(Intel)やサムスン電子(Samsung Electronics)などのチップベンダーがその役割を担った。そして2017年、NVIDIA CEOのジェン・スンファン(Jen-Hsun Huang)氏がそのバトンを引き継いだ形になる。
NVIDIAの基調講演は、ゲーム、スマートホーム機器の紹介と続き、そして自動車産業の話題となった。同社が2016年9月に発表した車載向けAI(人工知能)スーパーコンピュータ「Xavier(ザビエル)」を搭載した自動運転車「BB8」を動画で紹介した他に、「AI Co-Pilot」という新たなドライバモニタリング機能の紹介なども行った。またアウディとの提携強化を発表、2020年までにNVIDIAの人工知能(AI)を搭載した自動運転車を開発することを明らかにした。
CESをターゲットにした盛りだくさんの発表内容であったが、筆者が最も注目したのは、NVIDIAの「提携」だ。スクリーン上に自動運転車エコシステムの地図データ提供パートナーとして中国の百度(Baidu)とオランダのTomTomのロゴが表示された時、ここにヒア(HERE)とゼンリンが来たらほぼ世界制覇になる、と思っていたらそれが現実のものとなった。HEREは世界200カ国以上の地図を持つがそこに日本と中国は含まれない。そこを、百度とゼンリンが補完した。つまりNVIDIAのAIコンピュータを搭載していれば、世界中のほぼどの国に行っても、自動運転に必要とされる地図データを処理できることを意味する。これは、自動車メーカーのグローバル展開において、非常に重要な意味を持つ。
さらに発表された、大手自動車部品メーカーであるボッシュ(Robert Bosch)やZFとの提携は、自動運転実現に必要不可欠なアクチュエータ系のシステムとの連携が容易になることから、同社のAIコンピュータが、自動車メーカーの枠にとらわれることなく、市場を広げていくとの期待が高まる。このように提携を進め、NVIDIAは自動運転車のエコシステム構築を加速させている。PCやスマートフォンの次の市場としてチップベンダーが狙う「自動運転市場」で、いち早くその存在感を知らしめた形だ。
一方、スマートフォン向けチップの提供で世界一を誇るクアルコムはコネクテッドカーへのSIM搭載の面では一定の存在感を示していたものの、自動運転分野では出遅れた感があった。その後れを取り戻すべく、クアルコムは2016年10月に、車載向け半導体シェア1位のNXP Semiconductorを買収している。これで、クルマに搭載されたチップの「数」ではクアルコム/NXPが1位となる。
NXPは2016年5月に自動運転車向けプラットフォーム「BlueBox」を発表しており、既に「グローバル展開する自動車メーカートップ5社のうち4社に採用されている」ことから、これからクアルコムの急速な巻き返しが始まることだろう。
一方インテルも2016年7月に、BMWや画像認識技術のモービルアイ(Mobileye)とともに完全自動運転車の開発促進を狙ったオープンプラットフォームの構築を発表した。BMWは他のプレイヤーにも参画してもらい、エコシステムを構築したいと語っている。
上記したように自動運転車に必要な主要なプレイヤーと矢継ぎ早に提携を重ねたNVIDIAが強固なエコシステムを構築する中で、クアルコムとインテルがどこまで追い付けるのか、注目されるところだ。
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