ソーラーカー用タイヤは95mmの狭幅、転がり抵抗は「プリウス」の10分の1に:モータースポーツ(2/2 ページ)
ブリヂストンは、同社が冠スポンサーを務めるソーラーカーレース「2017 Bridgestone World Solar Challenge」の概要について説明。同レースに供給する専用タイヤを披露するとともに、レースに参戦する東海大学ソーラーカーチーム総監督の木村英樹氏などがソーラーカーレースの意義を訴えた。
「ソーラーカーレースがエコ技術を進化させる」
東海大学は1991年に電気自動車(EV)の要素技術研究を行うためにソーラーカーの開発を始め、1993年からWSCに参加している。その後、1996年、2001年、2009年、2011年、2013年、2015年と7回のWSCに出場。2009年と2011年は優勝しており、前回の2015年も3位に入っている。木村氏は、「WSCは肉体だけではなく頭脳でも戦うレースであり、新たな技術者の育成と、先端技術のショーケースとしての意義も大きい。自動車レースが自動車技術を進化させたように、ソーラーカーレースもエコ技術を進化させるだろう」と説明する。
しかし、太陽光発電パネルの電力だけで動くソーラーカーの実用化は容易ではない。これは太陽光発電によって得られる電力と、EVの平地における巡航に要する消費電力に大きなギャップがあるからだ。車両の全ての屋根に太陽光発電パネルを設置したとしても、得られる電力は最大で2000W以下にしかならない。その一方で、EVの走行速度を時速100kmまで上げるにはその5倍となる10kWの電力が必要になるという。登坂時や加速時には、さらに大きな電力が求められる。
このギャップを埋めるには、発電量の多い太陽光発電パネル、軽量の車体、低転がり抵抗のタイヤ、高効率モーター、ボディーの空気抵抗の低減などが必要になる。東海大学は、太陽光発電パネルにパナソニックの「HIT」を、軽量の車体のために東レの炭素繊維強化樹脂技術を、低転がり抵抗のタイヤにブリヂストンのソーラーカー用タイヤを、高効率モーターにミツバのモーターやジェイテクトのセラミックボールベアリングなどを採用している。また、ボディーの空気抵抗については、Cd値と前面投影面積(A)の積となるCdAの値で0.1m2を下回ることは当たり前の時代になっているという。
WSC2015の東海大学のソーラーカーは、HITからの出力1390Wで巡航時に時速100km、平均で時速90kmの速度を実現できる仕上がりとなった。とはいえ、1人乗りであり、ドライバー乗車時の快適性はお世辞にも高いとはいえない。太陽光発電だけで走る、究極のエコカーとしてのソーラーカー実現の道のりはまだ遠いのが現状だ。
ただし、東海大学のソーラーカーにHITを提供してきたパナソニックは、2017年2月発売の新型「プリウスPHV」向けに車載太陽光発電パネルを開発した。2011年に東海大学のソーラーカーに提供を始めてから培ってきた車両応用や曲面実装の技術が生かされているという。「WSC2017でも、軽量化や曲面対応を図り、発電量を向上できるような開発を進めている」(パナソニック エコソリューションズ社 ソーラーシステムBU 技術開発部長の岡本真吾氏)という。
木村氏は開発中のWSC2017の車両について「太陽光発電パネルの面積が3分の2になるが、WSC2015の車両に匹敵する走行性能を実現できるように開発を進めている。軽量化とモーター高効率化などにより、最高速度、平均速度で時速5km以下の低下で抑えられる見込みだ」と述べている。
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