AIを賢く学習させる手法、教育時間を50分の1に:人工知能ニュース
三菱電機は人工知能(AI)の事前学習時間を50分の1に低減する、効率的な学習技術を開発した。製造現場などでAIを活用する際に障壁となる学習時間を低減することで「現場で使えるAI」の実現を目指す。
深層学習や機械学習などの人工知能(AI)関連技術の活用に期待が集まっているが、領域拡大に対して障壁となっているが事前の学習期間や手法である。三菱電機では2017年5月24日、研究成果披露会を開催し、事前学習のための試行数を大幅に削減する「スマートに学習できるAI」を発表した。
今回開発した技術は、AI技術そのものではなく、AIの学習に対して指標を与え、効率化を図るという技術である。深層強化学習技術では、機械が試行を繰り返し、失敗と成功の経験を積み重ねることで、人がプログラミングしなくても、自動的に高い精度で作業を成功させるアルゴリズムを生成することが可能である。
しかし、これをAIの活用が期待される製造現場や車載環境などの現実的な工程に当てはめた場合、試行の時間が長く掛かりすぎて適用するのが難しいという状況がある。複数の試行機械を用意すれば学習時間を短縮することも可能だが、これも「1つ1つの作業を学習させるのに、多くのロボットや機械などを用意しなければならないのは、製造現場などを想定した場合、現場への負担が大きくなりすぎて難しい」(担当者)。
学習期間を従来比50分の1に
今回開発した技術は、従来のAIモジュールに、「制御アドバイザー」と「成功度合い評価」という2つの機能を加えたものである。この2つの技術により、試行の方法に一定の指標を与えることで、効率的に試行を行い、学習を進めて、学習期間を短縮する。
従来の機械学習は、試行作業の手法そのものには特に工夫なく、ひたすら試行作業を繰り返し、その中で成功と失敗のパターンを探るというものだった。そのため人間の目から見ると「その試行で駄目だったら、こっちも当然駄目なのに」というような失敗が分かりきった試行も繰り返してしまい、長い試行時間が必要となっていた。この無駄な試行を低減する。
試行に対する成功度合いを3次元データ化し、より成功度合いが高い方向での試行を進めることで最短ルートを目指す。これにより、従来のAIモジュールのみの場合と比べて学習時間を約50分の1に低減することに成功したという。
会場ではデモとして産業用ロボットが、ソケットを嵌合する作業を学習する過程を披露。単眼カメラだけで高精度で嵌合を行う様子を示した。「成功度合い」をどう評価するかについては「詳しくは言えないが、人間のノウハウ的な要素になる。カメラによる映像での評価だけでなく力覚センサーにより、どういう力がかかれば成功に近いのかなどを指標として加える」(担当者)と説明している。
三菱電機ではAIの活用について、一貫して「現場で使える技術」という思想を訴えている。2016年2月に発表したエッジデバイスに搭載できる「コンパクトな人工知能」技術※)などと組み合わせることで、「現場で使えるAI」の実現に向け、さらに関連技術の開発を進めていく方針だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 三菱電機がAIをブランド化、エッジの強みを強調
三菱電機は、同社が展開する人工知能(AI)技術ブランドを「Maisart(マイサート)」として展開する方針を示した。「コンパクトな人工知能」など現実的なAI活用を強調する。 - 「コンパクトな人工知能」実現へ、組み込み機器でディープラーニング
三菱電機がディープラーニングを組み込み機器単体でも実用可能なものとする手法を開発。自動車や産業用ロボット、監視カメラなどへの「人工知能」搭載を進める。 - いまさら聞けない産業用ロボット入門〔前編〕
日本は「ロボット大国」とも呼ばれていますが、その根幹を支えているのが「産業用ロボット」です。それは世界の産業用ロボット市場で圧倒的に日本企業がシェアを握っているからです。では、この産業用ロボットについてあなたはどれくらい知っていますか? 今やあらゆるモノの製造に欠かせない産業用ロボットの本質と基礎を解説します。 - 芽吹くか「組み込みAI」
第3次ブームを迎えたAI(人工知能)。製造業にとっても重要な要素技術になっていくことは確実だ。2017年からは、このAIを製品にいかにして組み込むかが大きな課題になりそうだ。 - 世界を変えるAI技術「ディープラーニング」が製造業にもたらすインパクト
人工知能やディープラーニングといった言葉が注目を集めていますが、それはITの世界だけにとどまるものではなく、製造業においても導入・検討されています。製造業にとって人工知能やディープラーニングがどのようなインパクトをもたらすか、解説します。 - きっかけは「スマホショック」、パナソニックがIoTに舵を切る理由
IoTがもたらす革新は、製造業にどういう影響をもたらしているのだろうか。大手電機のパナソニックでは、自社内や自社外でIoTを活用した業務プロセスやビジネスモデルの変革に積極的に取り組んでいる。危機感の裏付けになっているのが「スマホショック」だ。同社のIoT戦略を取り仕切るパナソニック 全社CTO室 技術戦略部 ソフトウェア戦略担当 理事 梶本一夫氏に話を聞いた。 - 人工知能は製造現場でどう役に立つのか
人間の知的活動を代替するといわれる人工知能が大きな注目を集めている。ただ、製造現場で「使える」人工知能は、一般的に言われているような大規模演算が必要なものではない。「使える人工知能」に向けていち早く実現へと踏み出しているファナックとPFNの取り組みを紹介する。