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新たな競争を生み出す「移動のサービス化」、5GはV2X通信の課題を解決するかMobile World Congress 2017レポート(後編)(3/3 ページ)

2020年を目標に商用化を目指す自動運転車と5G。両者への期待が相まって、自動車業界や通信業界の間でさまざまな「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」が生まれている。「Mobile World Congress(MWC) 2017」レポートの後編では、「移動のサービス化」と「V2X通信」のエリアにおける動向を紹介する。

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5GとV2X通信のどちらかを選ぶ段階ではない?

 MWC 2017において5Gの可能性が無限大に語られていることはここまで述べてきた通りだが、一方でV2X通信については1つ議論がある。それは「DSRC(狭域通信システム)」だ。

 既にセルラー通信ベースでV2Xを実現する方向で検討している中国とは異なり、欧米や日本はV2X通信におけるDSRCの活用を促進している。しかしDSRCには幾つか課題がある。

 1つ目は、通信距離が比較的短いことだ。DSRCはWi-Fi(IEEE 802.11p)ベースの技術であり、遠方まで電波を飛ばすことができない。よって、利用範囲はV2X通信の中でも、車車間のV2Vにとどまる。しかも交差点における死角など、直線状でのダイレクト通信ができない他、車両などの認識に課題があるとされている。

 2つ目はインフラ投資が必要なことだ。DSRCの精度を高めるためにはインフラ側の設備負担が必要である。しかしその費用を誰が負担するのかが課題となり導入が進まないのが実情だ。一部DSRCを促進し、市として投資を決めたところもあるが、体力のない市や州はインフラ投資が難しい。DSRCについては米国内でも「全米で展開するのは難しいのではないか」との見方があるのが実情だ。

 そして3つ目の課題になるのが、国/地域による周波数帯の違いである。欧米では5.9GHz帯を利用しているのに対し、日本では750MHz帯を利用している。そして中国は、先述の通りセルラーベースの技術でV2X通信を推進している。

 このような状況において、自動車メーカーもまた、それぞれスタンスが異なっている。DSRCを推進するメーカー、セルラー活用を推進するメーカー(公的には表明していないが強くLTEを推進する企業もあるとのこと)、両方に適応させるメーカー、そして決めあぐねているメーカーである。

 こういった技術のフラグメンテーションにより、自動車メーカーも一枚岩では動いていない。もし政府が「DSRCに限定する」との規制を設ければ自動車メーカーはそれに従うしかなくなる訳だが、グローバル企業として展開している自動車メーカーが国ごとに仕様を変更することへの反発は必至だろう。

 本件はまだ議論中であり、方向性が見えるにはまだ時間がかかる。同じ5GAAのボードメンバーに人を送り込んでいる通信設備ベンダーのエリクソンとノキアでも、そのスタンスは異なる。

 エリクソンが「DSRCも4G/5Gも両方対応できるよう検証している」のに対し、ノキアは「DSRCの取組みは行っておらず、4G/5Gを推奨する」としている。またコンチネンタル(Continental)は「ユースケースに応じて活用する回線を使い分けるべきであり、1つの技術のみに依存する必要はない」というスタンスである。一方、ソフトウェア企業のニューソフト(Neusoft)は「自動車向けソフトウェアなどの開発を行っており、DSRCの試験を1999年から行っている。(社会インフラへの投資が必要な)DSRCは特定の都市では対応可能だが、(多くの都市はお金がないため)米国全土で実現するのは難しいだろう。もしどこかの都市が5Gで実施し、そちらが1カ月でサービスインすれば(ニューソフトも)そちらに転じるだろう」としている。

 現状では、各社が推進している技術をそれぞれ推し、最終的決定権を持つ各国政府に働きかけを行っている段階だといえる。

 このようにV2X通信においては、自動車メーカーだけでなく、国/地域の政府、通信設備ベンダーなど関連するプレイヤー間でもスタンスが異なる。技術規格においても国/地域ごとに異なるなど「クルマ」「技術」「規制」の全ての側面においてフラグメンテーションが起こっている。

 これらさまざまなフラグメンテーションを解決することができるのか。自動運転実現への道はまだ遠い。

筆者プロフィール

吉岡 佐和子(よしおか さわこ)

日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。



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