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クルマは5Gのキラーアプリになり得るのかMobile World Congress 2016レポート(1/4 ページ)

「モバイルの祭典」として知られる「Mobile World Congress(MWC)」。今回のMWC2016では次世代移動通信システムである「5G」がテーマになっていた。いまだバズワード的にしか語られていない5Gだが、そのキラーアプリケーションとして期待されているのが「クルマ」である。MWC2016でも、クルマと5Gを絡めた講演や展示が多数あった。

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 2016年2月22〜25日まで、スペインのバルセロナで「Mobile World Congress(MWC) 2016」が開催された。MWCはその名の通り「モバイルの祭典」であり、毎年通信事業者や通信設備ベンダーが主体となってイベントを盛り上げる。

 今回のMWC2016のテーマ「Mobile Is Everything」を掲げて語られたのは、次世代移動通信システム「5G」であった。これまで移動体通信の世代は、2G(デジタル化)⇒3G(データ通信への対応)⇒4G/LTE(オールIP化)へと変化を遂げている。

 それに対し「5G」はこれまでのような技術の変化ではなく、「何の目的に使われるネットワークか」が議論の焦点となっている。つまり既存の4G/LTEでも十分な速度とパフォーマンスが確保されているとの見方もある中で、「本当に5Gは必要なのか?」という、5Gの必要性を模索する動きがみられたといえる。

 そして5Gのうってつけのアプリケーション(利用シーン)が、「クルマ」というわけである。そのため、MWC2016ではクルマについて語られることが非常に多かった印象だ。本稿ではMWC2016の中でもクルマに関する内容を紹介する。

基調講演に登壇したフォード、新型「クーガ」を発表

 Ford Motor(フォード)は、5年前にMWCでクルマを披露した初めての自動車メーカーである。その後MWCの常連となっているが、MWC2016でもまた新車が発表された。2016年中に欧州で7台のクルマを新たに投入することが明らかにされたが、そのうちの1台がMWC2016でお披露目された新型「Kuga(クーガ)」だ。

 フォードによるとクーガが欧州に導入されて以降、2015年は最も売れた年だそうだ。新型クーガには、自動ブレーキや自動駐車といった半自動運転技術を搭載している他、欧州では2016年から提供開始されるフォードの最新車載情報機器プラットフォーム「SYNC3」も搭載されている。もちろん「Android Auto」や「CarPlay」との互換性も確保されているとのことだ。

フォードが披露した新型「クーガ」
フォードが披露した新型「クーガ」。欧州で販売されている小型SUVだ(クリックで拡大)

 一方で、フォードが「モバイルの祭典」を重視している理由についても明確化された。MWC2016における基調講演で、同社CEOのMark Fields(マーク・フィールズ)氏から語られたのは新たな戦略であった。それは、130年の歴史を持つフォードが、これまでの「Auto Company」から「Auto Mobility Company」へとシフトしていくという内容だ。具体的には、これまでのクルマやトラックなどといったコアビジネスだけでなく、新たに「Ford Smart Mobility」と名付けた移動サービス分野にも参入するというのだ。

フォードは「Auto Company」から「Auto Mobility Company」へのシフトを志向している
フォードは「Auto Company」から「Auto Mobility Company」へのシフトを志向している(クリックで拡大) 出典:フォード

 その背景として都市部への人口集中と環境問題を挙げている。現在、世界人口の73%が都市部に住んでおり、この数値は今後もさらに上昇を続けるとみられている。それにより多くの人が、仕事よりも都市部での生活の方がストレスフルになっていくとフォードは考えている。そのような都市への人口集中を背景として、同社はバスやタクシー、カーシェアリングといった移動サービスに新たな収入の機会を見いだしているようだ。

 フォードによれば、現在クルマの売り上げによる業界全体の収入は23兆米ドルで、フォードはその中の6%を占めているという。これに対して移動サービス市場は54兆米ドル規模のビジネスになると推計している。移動サービス市場は今後15年間伸び続けるとみられている一方で、現時点では自動車メーカーはこの市場に参入できていない。だからこそ、今が最大のビジネス機会だとみているのだ。

クルマによる業界全体の収入と移動サービス市場の比較
クルマによる業界全体の収入と移動サービス市場の比較。フォードは移動サービス市場に展開を広げようとしている(クリックで拡大) 出典:フォード

 実際のところ、これからの世界的な少子高齢化に伴い、クルマの購入は減少傾向にあるとみられている上に、自動運転車の登場がさらに拍車を掛けると考えられる。

 このような社会の変化を背景にフォードが2016年1月に発表したのが「FordPass」である。これは、「移動」に関連するカスタマーエクスペリエンスを変えるための新たなプラットフォームと位置付けられており、フォード車のオーナー以外でも加入可能となっている。フォードは前述の通り自社を「自動車メーカー」ではなく「モビリティ企業」と再定義しており、「FordPass」はこれを具現化したものだ。

 FordPassは、モビリティ関連製品やソリューションを提供する「Ford Marketplace」、ローカル情報提供の「FordGuides」、マクドナルドやセブンイレブンに加え新たに石油会社のbpとの提携によるポイントプログラム「Ford Appreciation」、そしてフォードに関連するイベントや新体験ができる「FordHubs」がある。これらのサービスは2016年4月から提供される予定だ。

「FordPass」のサービス構成
「FordPass」のサービス構成(クリックで拡大) 出典:フォード
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