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新たな競争を生み出す「移動のサービス化」、5GはV2X通信の課題を解決するかMobile World Congress 2017レポート(後編)(2/3 ページ)

2020年を目標に商用化を目指す自動運転車と5G。両者への期待が相まって、自動車業界や通信業界の間でさまざまな「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」が生まれている。「Mobile World Congress(MWC) 2017」レポートの後編では、「移動のサービス化」と「V2X通信」のエリアにおける動向を紹介する。

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5GはV2X通信が抱える課題を解決できるか

 韓国の通信事業者SKテレコム(SK Telecom)とエリクソンは、コネクテッドカーを用いた5Gの実証実験結果をアピールしていた。この実証実験は、2016年秋に韓国にあるBMWのレーシングトラックで、エリクソンとSKテレコムによる5G技術を用いて、ギガビット秒クラスの通信速度と数ミリ秒という低遅延の達成に世界で初めて成功したというものだ。

 この実験は「ビームフォーミング」という通信技術により実現した。複数のアンテナ間を高速移動する複数のレーシングカーとの通信が、それぞれ途切れる事なく継続できたそうで、5GAA発足以降の5G実証実験の成功事例として注目されている。この領域は、V2I(路車間)やV2V(車車間)、場合によってはV2P(歩車間)といった、クルマとさまざまなモノとの通信、つまりV2X通信への適用が期待されている。

SKテレコムとエリクソンによる5Gの実証実験結果の展示SKテレコムとエリクソンによる5Gの実証実験結果の展示 SKテレコムとエリクソンによる5Gの実証実験結果の展示(クリックで拡大)

 LTEを用いたV2X通信については「セルラーV2X」として標準化団体の3GPPにより現在検討されており、次のリリース14で仕様が確定する予定となっている。なお、2015年秋に、ドイツテレコム(Deutsche Telekom)とノキア(Nokia)、コンチネンタル(Continental)などが、アウトバーンでLTEとエッジコンピューティングを用いたV2X通信で20ミリ秒以下の遅延に留めることに成功している。

 V2X通信領域ではさらなる低遅延が求められており、通信業界各社は1ミリ秒以下の遅延を目指した5Gの開発に躍起だ。

 スペインの通信事業者であるテレフォニカ(Telefonica)とエリクソンが協業でデモ展示していたのは、5Gを用いたクルマの遠隔操作だ。MWC 2017の会場から離れた場所に走行トラックを設け、MWC 2017の会場内に設置されたゲームセンターのクルマの運転席ようなものに乗り込んで、走行トラックのクルマを実際に運転するというものだ。筆者も体験してみたが、アクセルもブレーキもほぼリアルタイムの応答性で操作できた。

 また、ハプティック技術を採用しているため、実車に搭載されたセンサーが、道路の凸凹などを検知してそれをリアルに会場のドライバーに感じさせることができる。実車には人が同乗しているが、その人物は車体に何かあった時のフォローをするだけであり、基本的にクルマの操作は一切していないという。

 それを証明させるために、筆者は遠隔操作の際にわざとパイロンに突っ込んでみた。実車がパイロンを踏み込み停車してしまうと、ドライバーにはその衝撃が伝わってくる。その後実車から人がおりてきて車体をバックさせ、パイロンを元通りに直し、再び走行可能な状態にしていた。これは、デモ車後方にはカメラがついていないため、バックができないようになっている設計だからだそうだ。しかし、いずれにしてもこういったことがリアルタイムで実現できているのである。

テレフォニカとエリクソンによる5Gを用いたクルマの遠隔操作のデモテレフォニカとエリクソンによる5Gを用いたクルマの遠隔操作のデモ テレフォニカとエリクソンによる5Gを用いたクルマの遠隔操作のデモ(クリックで拡大)

 このデモにおけるアピールポイントは、5Gによってリアルタイムな通信が可能になるかということだ。エリクソンによると、通信(伝送)部分だけであれば3〜4ミリ秒の遅延を達成したそうだが、間に介在するデバイスの処理により、トータルでの遅延は約50ミリ秒になっているとのことだ。

 ここに1つの課題が見られる。つまり、伝送そのものが、5Gの目標である1ミリ秒以下の遅延を実現しても、その伝送データを処理する中継デバイスやエッジ端末(今回の場合はクルマ)の処理能力が遅ければ意味がない。

 しかし、数十ミリ秒程度の遅延であれば、活用が期待できるサービス分野もある。それは、リアルタイムでの道路状況把握だ。

 走行が予定されているルートに、万が一何かトラブルがあった場合には、その状況を把握して迂回路を設定する必要がある。このようなサービスは既に展開されているが、他のクルマやインフラ側からの情報をリアルタイムに得ることでさらに通知までの速度と精度が高まる。加えて、検知できるものが渋滞にとどまらず、例えば路面凍結情報や冠水など、あらゆる情報を瞬時に伝送できるようになり、より安全性が高まるとして期待されている。

 他にも、AI(人工知能)や地図データを含む自動運転ソフトウェアのリアルタイムアップデートや、車両の前方の視野を妨げるトラックなどの障害物や交差点といったさまざまな死角をなくすシースルー技術などが挙げられる。もちろん、車内での過ごし方という観点で、動画ストリーミングの高速化などユーザーエクスペリエンスを高めることも可能となる。

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