IoT時代にどう立ち向かうか、自動検査の位置付けを変えたマインドセット:検査自動化(2/2 ページ)
「検査装置は不具合を見つける装置ではなく、不具合を出さないためのものだ」――。基板実装ラインなどで使われる外観検査装置で好調を続けるサキコーポーレーションだが、成功の土台には「マインドセット」の取り方にあったという。サキコーポレーション社長の秋山咲恵氏の講演の内容をお届けする。
「検査装置は不良を作らないための装置」
同社は秋山氏とエンジニアだった夫のたった2人で1994年に創業し、ゼロからのスタートで生まれた企業である。秋山氏が同社を創業したのは30歳の時だった。「あまり業界経験がなかったことから、業界の常識に捕らわれない発想を持つことができた」と振り返る。競合他社が多い中で、営業を行ったが、その当時はまだ、検査装置自体が普及していなかった。
その理由について「製造装置には投資するが、検査は価値を生まないので、なかなか予算を組むことができないという時代だった」とする。その時代に自社製品を売り込むため「検査装置は作ってしまった不良を見つける装置ではなく、不良を作らないようにするための装置」というキャッチコピーを打ち出した。最初は、顧客の反応は悪かったが、高速で検査を行う装置を開発。リアルタイムで検査することで不良の原因を短時間で突き止められることから不良の数を抑えることにつながり、結局この製品の能力とコンセプトが他社製品との差別化につながった。
事業が成長していくことで顧客が増え、業績は順調に伸びたことで、従業員も増員した。しかし、それは負うべき責任が重くなるということにもつながり、彼女自身はその重圧に人が苦しんだこともあったという。また、「それまで、社内の仕事は何もかも自分で引き受けていた」(秋山氏)というスタイルから、組織として仕事を振り分けなくてはならないようになり、それもストレスとなった。しかしそれも、続けていくと次第に慣れて、自分を取り戻すことができた。
そんな中で、2008年リーマンショックが発生し、業績は落ち込み始めた。会社のトップとして現実を受け入れ、会社が置かれている状況を、社員に説明し、これからやるべきことを社員に指示しなければならなかった。秋山氏はこのころを振り返り「現実を受け止めて、ここからやり抜くとい気持ちを固めるまでの新しいマインドセットを作るまでが苦しかった」と述べた。それができたのは「そうするしかなかった。逃げ出すことができなかった」との強い気持ちがあったためだ。こうして取り巻く環境の変化の中で自分と向き合うことで自分のマインドセットを修正し、この苦境を乗り越えた。
最先端にいればマインドセットは変化する
秋山氏は、こうした自分と向き合いながら作り上げる他に「外部環境の変化が大きく作用することがある」と指摘する。1996年に同社検査装置がソニーの基幹工場の生産ラインに採用された。その当時、ソニーに採用されたのは奇跡的だったという。このソニーとの出会いが同社の方向性にも大きく関わった。「時代の波に乗れたのは、最先端を進んでいる企業のニーズに応えた製品造りができたことだ」と話した。
現在は、同社の検査装置を世界50か国、累積8000台以上を納めるほどの実績を築いている。さらに世界10カ所以上に現地法人やサービス拠点を構えている。これらのようにビジネスで成功した経験をもとに秋山氏は「マインドセット」の重要性について語る。「一人一人のマインドセットはどこから来るのか。それは自分の所属している組織のカルチャー、経営理念などが大きく影響する」と秋山氏は強調する。
IoTやAIなどを駆使したスマートファクトリーやインダストリー4.0などがキーワードとなる新しい時代が訪れる中で、今まで関わってこなかった人たちと組んで新しい価値を作ってくことは避けられない時代となっている。こうした状況に対応するためにも秋山氏は「自分自身を最先端に置くことが必要だ。最先端のチャレンジャーであることは、次世代リーダーのビジネスパートナーになる可能性を秘めている」とする。そして、「最先端にいればマインドセットは変わらざるを得ない」と結論付けた。
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