自動運転車と5Gがもたらす「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」:Mobile World Congress 2017レポート(前編)(4/4 ページ)
2020年を目標に商用化を目指す自動運転車と5G。両者への期待が相まって、自動車業界や通信業界の間でさまざまな「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」が生まれている。自動運転車と5Gが交錯した「Mobile World Congress(MWC) 2017」の展示を中心に、それらの動向を考察する。
シェルとジャガーランドローバーの「世界初」の車内決済ソリューション
しかし、より注目したいのはアクセンチュア・デジタルのブーススタンドに展示されていたシェル(Shell)とジャガーランドローバーの車内決済ソリューションとなる。シェルが展開するガソリンスタンド情報アプリをインストールしたスマートフォンと、ジャガーランドローバーの車載システム「InControl」を接続することで、クルマのガソリン残量に応じて適切にシェルのガソリンスタンドを紹介する。
さらに、給油スタンドと連動することにより、車載システムに給油情報や金額が表示され、支払ボタンをタッチするだけで決済が完了するというものだ。決済には事前登録済みの「Apple Pay」や「PayPal」が利用される。この給油スタンドとアプリ、車内システムの連動及び決済は「世界初」と発表されている。
これまでシェルは、MOBGEN(2016年7月にアクセンチュア・デジタルにより買収)とドライバー向けのアプリ構築を行ってきた。位置情報を用いて最寄りのシェルの給油スタンドを通知するもので、カナダでは、さらに利用回数に応じて利用者にリワード(割引クーポンなどの特典)を提供するサービスも展開している。このアプリをジャガーランドローバーのInControlと連動させることにより、車載システムからの給油スタンド情報取得から決済までを実現させたわけだ。
この仕組みを実現できた裏には、ボッシュのBosch IoT Cloudがある。「シェルのサービスに関心を持ったジャガーランドローバーがボッシュに同サービスを導入したい旨を相談したところ、起案からサービスインまで6カ月という異例の速さで実現できた」と開発担当者は語る。
これは、IoTによる新ビジネス創造を狙う自動車メーカー、IT企業、第三者(サービス事業者)の目的が合致した結果といえよう。このように直接的な競合とならない企業同士の連携は今後促進していくものと考えられ、新たなサービスが生まれてくるだろう。
一方で自動車メーカー同士のデータ共有となると、競合するという理由で活発な動きは見られない。更にこれらのデータは「共通言語」である必要があるが、実際は、クルマごと、メーカーごとにデータのフォーマットが異なっているため一筋縄ではいかない。更にスマートフォンと異なりクルマは開発サイクル、ライフサイクルともに非常に長いことから仮に共通言語化されたとしても全てのクルマが同じ言語で会話をするまでには数年〜10数年もかかってしまう。
一例として、アウディ(Audi)、ダイムラー(Daimler)、BMWが、地図ベンダーのヒア(HERE)を買収する際も、各自動車メーカーから得られるデータが異なるだけでなく、そもそも各社データを社外に出したがらなかったため交渉に時間がかかったそうだ。最終的に合意に至ったのは、グーグルへの対抗と、カバレッジ問題の解消があると考えられるが、このような明確な歩み寄りポイントがない限り、データ共有は難しいというのが実情だ。
どこまでを「協調領域」とし、どこからを「競争領域」とするのか。まずは、さまざまなデータを統一フォーマットとして活用できるプラットフォームの構築が第一歩となるだろう。
後編では、MWC 2017の展示レポートを中心に、「Mobility as a Service(移動のサービス化)」「V2X通信」に関わる各プレイヤーの動向を紹介する。
筆者プロフィール
吉岡 佐和子(よしおか さわこ)
日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。
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