自動運転車と5Gがもたらす「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」:Mobile World Congress 2017レポート(前編)(3/4 ページ)
2020年を目標に商用化を目指す自動運転車と5G。両者への期待が相まって、自動車業界や通信業界の間でさまざまな「パートナーシップ」と「フラグメンテーション」が生まれている。自動運転車と5Gが交錯した「Mobile World Congress(MWC) 2017」の展示を中心に、それらの動向を考察する。
車両データの「フラグメンテーション」がもたらすサービスのサイロ化
2つ目の「テレマティクス」は、主に、走行履歴や燃料の残量など、車両データを自動車メーカーなどのサーバに送信することで車両状況のモニタリングやメンテナンスに活用するシステムだ。
ここで送信されるデータは、動画や高精度地図など通信業界では5Gのユースケースとして期待されているような大容量のものとは異なり、わずか数KBの間欠通信データとなる。そのため、5GどころかLTEである必要もなく、省電力広域(LPWA)ネットワークでも対応可能な領域である。つまり、どのようなデータを送信するかによって必要となる通信回線は異なるということだ。
LPWAについてはMWC2016のホットトピックスの1つとなっており、同ネットワークを用いて実現するIoT(モノのインターネット)を通信業界団体は総称して「Mobile IoT(MIoT)」と呼ぶようになった。
既に商用展開を開始しているフランスの独立系企業シグフォックス(Sigfox)や、Loraアライアンスなどがグローバル展開を加速する一方で、既存のセルラー網を活用してLPWA対応する「Cellular IoT(CIoT)」は、2016年に標準化期間が3GPPで規格化されたばかりで、ようやく本格商用化に向けて動き出したところだ。
そして5Gは、「超高速、超低遅延、大容量」の通信回線であるのと同時に、その真逆の性質であるCIoTも包含するというコンセプトであることから、テレマティクスデータの送信への活用も考えられる。つまり、5Gは自動車領域におけるさまざまなデータ伝送ニーズにも対応しており、コネクテッドカー/自動運転車領域における通信手段のフラグメンテーションを解消する可能性を秘めている。
一方、クルマをIoTの観点でみると、安心安全と新たなビジネス創造を実現するための多種多様なデータを送受信する「デバイス」と見なすこともできる。そして、このクルマというデバイスが生み出す莫大なデータを管理するためのIoTプラットフォームが非常に重要となってくる。代表的なものとして、ボッシュ(Robert Bosch)の「Bosch IoT Cloud」や、ノキア(Nokia)の「Impact」、エリクソンの「Connected Vehicle Cloud」などが挙げられるだろう。
先述の通り、これまでテレマティクス情報は、主に自動車メーカーがクルマのデータを収集し、車両状況把握やOTA(Over the Air)によるソフトウェアアップデート、プレディクティブメンテナンスなど、自動車メーカーのエコシステム内で閉じた活用がされていた。しかし、こうしたクラウドプラットフォームの活用により、自動車メーカーによるテレマティクスデータの収集/管理にとどまらず、第三者を含めた新たなサービス連携の動きも見え始めている。
ジャガーランドローバーは、アクセンチュア・デジタル(Accenture Digital)のブーススタンド、AT&Tのブースおよび特設コーナー「GSMA Innovation City」など、複数箇所にラグジュアリーカーを展示していた。
GSMA Innovation Cityに配置されたSUV「F-Pace」では、ジャガーランドローバーの最先端のマルチメディアシステムとなる「InControl Touch Pro」によって、家を出てから目的地までのドアツードアのルート選定やナビゲーション、音声コントロール、そしてハイエンドのマルチメディアシステムが、スマートフォンとシームレスに連動し、HD動画を含むさまざまなサービスを利用できるという内容のデモを行っていた。このInControl Touch Proはボッシュとの提携により実現している。
「GSMA Innovation City」の中心に据えられた「F-Pace」。通路を挟んだ向かいのAT&Tブースにも車両を配置するなど、メイン通りはジャガーブランドの車両がお出迎えといったところ(クリックで拡大)
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