東芝、逆転のシナリオは「第4次産業革命」にあり:製造マネジメントニュース(3/3 ページ)
経営危機の東芝は、新たに「今後の東芝の姿」を発表。メモリ事業の完全売却や海外原発事業整理後の成長のシナリオについて示した。
成否のカギは「第4次産業革命」にあり
ただ、主力として位置付ける社会インフラ事業にしても、エネルギー事業にしても、多くの領域が既に成熟しており、大きな成長を見込むのが難しいという状況である。ここで新たな成長余地を生み出すにはそれぞれのシナジーが必要となる。そこで期待されているのが現在日本でも多くの取り組みが進んでいる「第4次産業革命」の動きである。
第4次産業革命とは、AIやIoT、ビッグデータ分析などの技術の発展により、実社会のあらゆる事業や情報がデータ化・ネットワーク化を通じて自由にやりとりできるようになり、その情報を分析し新たな価値を生み出すことで、新たな産業の形を実現する動きのこと。機械が自ら学習し、高度な判断を行えるようになる「自律化」の実現が大きなカギを握ると見られている。
東芝では、IoTソリューションの展開において、Chip to Cloud(C2C)ソリューション(組み込み用SoCとエンドポイントエージェント、センサー情報などを処理して機器を制御するためのクラウド基盤によって各種機器のIoT化を容易にするソリューション)などを強みとして訴えており、まさに「電子デバイス」と「ICTソリューション」が土台であることを示している。これらを活用することで、コモディティのインフラ産業に新たな価値を生み出し、革新につなげていくということが“新生東芝”の新たなシナジーであり、成長の源泉であるといえる。
全ての前提は海外原発事業のリスクを遮断できてこそ
ただ、こうした新たな成長戦略も全ては“絵に描いた餅”に終わるかもしれない。今回の成長戦略の発表においても前提となる取り組みとして「海外原子力事業のリスク遮断」を挙げ、WECの過半数株式の売却などを進める方針を示した。現状では「リスクを可能な限り織り込んだ」(綱川氏)としているが、WECについては原発の建設遅れの問題などから、赤字の状況が続いており、米連邦破産法11条(チャプターイレブン、日本の民事再生法に当たる)の措置を取ることも検討しているという。もし、チャプターイレブンを適用した際には、親会社保証として数千億円の請求が東芝にかかってくる可能性がある。
さらに、現在折り込みきれていないリスクとしては、米国のシェールガスの問題がある。東芝は2013年に米フリーポートLNGとシェールガスの液化加工契約を結んでおり、生成されたLNGについては20年間にわたって東芝が引き取ることになっている。ただ原油価格の低下などでシェールガスによるLNGが割高となっており、想定価格差の分だけ損失額が発生する可能性がある。現在は2019年度の計画で損失を引き当てることを計画しているというが、損失額がどのくらい生まれるか分からない中で、想定を上回れば、せっかく売却したメモリ事業などの原資を食いつぶす可能性もある。新たな成長戦略もまずはこうしたリスクを排除してこそだといえる。
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