画像認識の機械学習アルゴリズムを容易に組み込める、ザイリンクスが新開発環境:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
ザイリンクスは、機械学習ベースの画像認識アルゴリズムを組み込み機器で容易に活用するための開発環境「reVISIONスタック」を発表した。2017年4〜6月期の市場投入する計画。
「多くの企業が画像認識に機械学習を適用しようとしている」
ザイリンクスが画像認識分野に特化したreVISIONスタックを投入する背景には、画像認識システムにFPGAを利用している多数の顧客の存在がある。自動車メーカーの先進運転支援システム(ADAS)の他、業務用AV/放送用機器サプライヤー、スマートカメラ/映像機器サプライヤー、産業機器用カメラメーカーで豊富な採用実績があり、新規分野として医療診断機器メーカーやVR(仮想現実)/AR(拡張現実)機器メーカー、ドローンサプライヤーなどからも引き合いがある。
グレイザー氏は「これらの顧客は、何らかのカメラとアルゴリズムの組み合わせで画像認識システムを構築している。そして、当社の知る限り40社以上の企業が、画像認識に機械学習を適用しようとしている。今後も拡大するこの需要に対し、当社の顧客へのアプローチも変えていかなければならない」と述べる。
このような、従来型の「エンベデッドビジョンシステム」から「ビジョンガイデッド自律システム」へという画像認識システムの進化の例も幾つか挙げられた。工場用ロボットから協働ロボット(Cobot)へ、ドローンは単なるカメラ搭載型から衝突回避が可能な自律型へ、カメラを用いたADASから自動運転システムへ、などだ。「進化した画像認識システムは、機械学習に加えてセンサーフュージョン、そしてこれらに対応する機能を1チップに統合することも求められる」(グレイザー氏)という。
「Zynq」は「Tegra」よりも高性能
画像認識システムへの機械学習アルゴリズムの適用で大きな存在感を放っているのがNVIDIAだ。機械学習アルゴリズムの開発に用いられているGPUを組み込み機器にも利用できるようにしたSoC「Tegra」や、Tegraを搭載する開発ボード「Jetson」などを“組み込みAI”と呼んで製品展開している。
グレイザー氏は、NVIDIA製品や他社のSoCと比べて、Zynqが画像認識システムに最適なデバイスであることを強調した。「Maxwell」アーキテクチャのGPUを256コア搭載する「Tegra X1」と比較して、Zynq UltraScale+ MPSoCであれば、機械学習の推論で6倍、画像認識で42倍、リアルタイムアプリケーションの遅延時間で5分の1という性能を実現できるという。この性能をカメラベースの自動ブレーキに適用した場合、Zynq UltraScale+ MPSoCが高い応答性でブレーキをかけて衝突することなく停止できるのに対し「Tegra X1は衝突してしまう」(グレイザー氏)という。
高い応答性には理由がある。グレイザー氏は「Zynqでは、センサーデータのフュージョン、アルゴリズム処理、制御のための命令処理といったデータフローをプログラマブルロジックでそのまま処理できる。一方、GPUを用いる場合、センサー、アルゴリズム処理、命令処理といったデータフローにメインメモリとのやりとりが介在する。プログラマブルロジック部での一貫した処理は、メインメモリとやりとりするのと比べて約19倍高速であり、だからこそ高い応答性を確保できる」と説明する。
FPGAの優位性は再構成可能(リコンフィギュラブル)な点にもある。機械学習に用いられるニューラルネットワーク、そしてカメラをはじめとするセンサーは日々進化していく。FPGAであれば、それらの進化に対応するための柔軟性を確保できる。またIoT(モノのインターネット)としての通信接続についても、FPGAに機能を組み込んで対応することが可能だ。カメラ以外のさまざまなセンサー情報を統合するセンサーフュージョンでもFPGAの柔軟性が役立つとした。
グレイザー氏は「Zynqは、競合よりも応答性が高く、再構成可能なことによる柔軟性を持ち、価格や消費電力でもメリットがある。その上で、HDLを熟知しないソフトウェア技術者やシステムエンジニアでも実装を容易に行えるreVISIONスタックを投入することで、より広範な顧客の画像認識システムの進化に貢献できるだろう」と述べている。
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