産業機械メーカーが考えなければならない4つの技術革新:製造マネジメントインタビュー(2/2 ページ)
インダストリー4.0などIoTを活用したスマートファクトリーの実現に大きな注目が集まっているが、これらの動きの中で重要な役割を果たす産業機械メーカーにはどういう変化が求められるだろうか。シーメンス産業オートメーション事業部のビジネスユニットであるシーメンスPLMソフトウェアで産業機械担当のシニアディレクターを務めるラフール・ガーグ(Rahul Garg)氏に話を聞いた。
4つの技術進化に対する危機感
MONOist 4つの技術進化に対応する動きについては、本格化してきているといえるのでしょうか。
ガーグ氏 これらの4つの技術については、危機感を持って取り組む方向に動いているといえる。ARについてはまだ先だという認識だが、先に活用していけばテクノロジーリーダーシップが取れるのではないか、という捉え方で注視していくべきとしている。その他では既に取り入れる動きが出つつある。
最も重要視されている技術が「IoTとビッグデータ分析」である。既に活用すべき個々の技術は成熟しているのですぐに実益を出すことができる。しかし、機器からデータを収集するのは、顧客からの信頼がないと難しい。顧客との信頼関係や契約方法などを検討していく必要がある。また、ビッグデータ分析は予兆保全など、データ活用サービスとして活用する方向への期待が高まっているが、一方で製品が生み出すデータによる知見を設計や製造にフィードバックできることが価値であるという点も評価を受けている。
「メカトロニクスのシミュレーション」は、開発におけるシミュレーションの活用拡大である。これは既に活用されている技術であるが、有効活用するまでにはまだまだ課題も多い。特に大きいのが人の面での課題だ。熟練技術者は機械組み立てについては熟知しているが、シミュレーションなどのエンジニアリング関連技術については弱い。一方で新しく大学などから入社する社員などはシミュレーションはよく分かっているが、機械組み立てのノウハウはない。これらを両面から理解できるようにならなければ、有効活用していくのは難しい。
「積層造形」については、試作用途の樹脂加工の他に金属加工機械では既に活用が進んでおり、切削と積層を組み合わせた加工機械なども出てきている。金属加工機械では、加工の1つの手法として定着すると予測され、30〜40%が積層造形を取り込んだ機械になるだろうと予測されている。金属加工以外にも木工機械メーカーなどでも積層造形の要素を組み込むことで新たな価値を生み出せるのではないかという考えも生まれてきている。新たなテクノロジーの価格は安くなり続けており、産業機械メーカーにとっては先進技術を採用しやすい環境が生まれている。
日本企業にはグローバル化で変革が求められる
MONOist 日本の産業機械メーカーの動向についてはどう見ていますか。
ガーグ氏 グローバルのさまざまな産業機械メーカーとともに日本企業とも話をしているが、日本企業はIT活用がやや遅れているように見ている。多くの領域が紙ベースのプロセスで進んでいる。日本を中心としたローカルな動きであればこうしたプロセスは問題ないが、顧客である製造業自体のグローバル化が必須となる中、グローバル対応の必要性が出てきているはずだ。また中国などの競合企業の動きが早く、強くなってきており、こうした動きに対応する必要性が出てきている。
MONOist 産業機械の内、工作機械などは中小製造業でも多く使われているが、中小製造業はこうした新しい技術トレンドが生まれていると知っても採用するのが難しいのでは?
ガーグ氏 個人的な考えだが、町工場のユーザーの方が“情報発信を行う機械”を求めているように感じている。突然機械が壊れた場合、影響が大きいのは大企業より中小製造業の方だ。壊れる前に情報発信を行い、メンテナンスなどを計画的に行うことで生産停止時間を削減できる。それにより生産能力を顕著に高めることができるからだ。
また、中小製造業が求めているのは、人と機械のインタフェースのところでの改善である。既に消費者としてはスマートフォンなどの使用に慣れているのに、産業機械は複雑なボタン操作などが必要だ。作業者も世代交代しデジタル世代に変わろうとしている中で、産業機械だけが対応に遅れている状況というのは、教育などの面で負担を高めているのではないかと考える。
「デジタルエンタープライズ」を支援
MONOist こうした動きに対し、シーメンスとしてはどういう取り組みを進めていくつもりですか。
ガーグ氏 こうした中で業務を全てデジタル化していく「デジタルエンタープライズ」が重要になる。デジタルエンタープライズは、企業の業務全てをデジタル化しシームレスに連携できるようにしていくというのが、コンセプトである。ただ、こうした取り組みはすぐには実現するのが難しい。シーメンスPLMソフトウェアではこのデジタルエンタープライズ化への取り組みを支援していく。まずデジタルエンタープライズを実現するのに何をやっていいのか分からない状況になるが、シーメンスPLMソフトウェアではシステムの全体像を青写真として提示し、何ができていて何ができていないのかを示せる「デジタルブループリント」を用意している。
「IoTとビッグデータ分析」については、シーメンスはクラウドのIoTプラットフォームとして「マインドスフィア」を用意している他、産業機械に特化した分析基盤「インダストリーソリューションズ&カタリスト」を用意。IoTなどで得られるデータを分析し、シーメンスグループが持つノウハウなどを組み合わせて、ベストプラクティスとして提供できる。すぐにIoTの成果を生み出せるというわけである。同システムはオンプレミスでの提供とともに、クラウドにも対応している。現状では米国のみでの展開となるが2017年中には日本でもリリースする予定だ。現状では「マインドスフィア」と「インダストリーソリューションズ&カタリスト」は別のシステムだが、将来的にはシームレスに連携できる形となるだろう。
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