「ひとみ」はなぜ失われたのか(前編) 衛星を崩壊に導いた3つのプロセス(3/4 ページ)
信頼性の高さを誇ったはずのX線天文衛星「ひとみ」はなぜ、打ち上げ1カ月あまりで崩壊に至ったのか。まずはその過程を確認、検証する。
異常3:スラスターが回転を加速
リアクションホイールが使えなくなるというのは、衛星にとってはかなりの非常事態だ。姿勢制御は、衛星の生死を左右するほど重要な機能である。姿勢が制御できないと、太陽電池パネルに光を当てられず、電力を喪失する恐れがある。電力が無ければ、衛星は何もできなくなってしまう。
そこで、リアクションホイールの角運動量が制限値の120Nmsに達した時点で、ひとみの姿勢制御系は異常事態と判断し、セーフホールド(SH)モードへの移行を開始した。
セーフホールドモードは衛星にとって最後の手段。このモードになると、ひとみは3軸姿勢制御を捨て、Y軸まわりにゆっくり回転、その回転軸を太陽に向ける。回転により力学的に安定させ、電力も確保できる姿勢というわけだ。非常時にはこのモードにしてひとまず衛星の安全を確保、それから原因を調べて復旧させるという手順になる。
通常は、セーフホールドモードへの移行にはリアクションホイールが使われるのだが、今回のケースはそのリアクションホイール自身の問題がトリガーになっているため、ひとみの底部4カ所に搭載されているスラスター(RCS)が利用された。
各軸まわりに必要なトルクを発生させるためには、4つのスラスターをそれぞれ何秒間噴射したら良いか。その計算に使われるのが「RCS駆動マトリクス」という、4行(4スラスター)×6列(3軸×2方向)の配列である。今回の事故では、このパラメータが間違っていたのだが、これについて、ちょっと詳しく見ていこう。
ここでは、2つのツールが関係している。まず1つ目のツールを使って、スラスターの推力データから、RCS駆動マトリクスを生成する。そして2つ目のツールを使って、RCS駆動マトリクスと衛星の慣性モーメントのデータから、衛星に送るバイナリデータに変換する。
ミスが起きたのは、2つのツール間でのデータの受け渡し時だ。これは自動化されておらず、手動で行っていたのだが、マイナス値は絶対値に変換した上で入力する必要があったのに、行われていなかった。
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