人が活きる教育訓練と安全衛生環境体制づくり:いまさら聞けないTPM(6)(3/3 ページ)
本連載「いまさら聞けないTPM」では、TPM(Total Productive Maintenance)とは何か、そして実際に成果を得るためにどういうことに取り組めばいいかという点を解説する。第6回となる今回は、「TPMの8つの活動(8本柱)」のうち、教育・訓練と安全環境衛生体制づくりについて紹介します。そして、TPMの今後についても述べたいと思います。
進化し続けるTPM
TPMは製造業とともに発展してきました。今後もさらに企業環境の変化とともに進化していくことでしょう。モノづくりでのロスの顕在化と撲滅、リスクの検出と削減、価値の創造を行い、企業の固有技術を向上させ国内外で大きな成果を生んできました。極限志向(ロスゼロ)による諦めない体質づくりや、妥協せず常に理想を目指すことによって技術のブレークスルーが可能になるのです。ロスを切り口にその撲滅を図るアプローチを全員で実践し、さらなるロスの検出力の向上、加えてリスクや価値を見る目を養い、ものづくりのあるべき姿の追求を怠らないことが成長の源泉といえます。
8本柱の活動により、P(生産性)Q(品質)C(コスト)D(納期)S(安全衛生)M(モラール)E(環境)などの有形の効果の他に、無形の効果として、
- 上から言われなくても行動の取れる自主管理の徹底
- 故障や不良などのロスのゼロ化の実現によるやればできるという自信
- きれいな職場や明るい職場の実現
- 工場来訪者へのイメージアップ
- 特許や実用新案などの技術力の向上などといったメリット
を生み出しています。その結果、ステークホルダーの満足につながっていくのです。
製造業は生産部門が主要な役割を担っています。顧客の要求品質を納期通り、所定の原価で作る。図5に示すようにSCMやPLMなどの交点に生産があります。全てのプロセスの中心となるのが生産で、この力量こそ企業の存続を左右するものに他なりません。この中心となる生産部門が原材料、製品、プロセス、設備に強くなり、源流部門に対し「もの言う現場、源流の問題点を解決できる現場」になっていかなければなりません。
これまで、世界に拡がる日本発祥の生産経営革新技術であるTPMを紹介してきました。TPMは実践企業や先輩コンサルタント、TPM賞審査員により今日まで発展してきました。先達諸氏への感謝、ならびに敬意を表するとともに、これからもコアの部分はさらに強化しながらも、いかなる環境に対しても逞しく強靭でしなやかで、かつサスティナブルな企業の実現に向けて、TPMのプログラムのイノベーションを読者の皆さまとともにつくり上げていきたいと存じます。
ボーダーレス、タイムレス、シームレスな時代に即したスマートファクトリー、リーンカンパニー実現のための現場力強化、すなわち8本柱のさらなる深化とともに企業運営全体へ進化するための活動の発展、固有技術と管理技術の進化と深化により、技術立国として世界を席巻するよう「人を活かす経営、人が活きるTPM」を実践していただき、競争力のある世界一の企業になって、モノづくりに携わる全ての人の豊かな人生、自己実現につなげていただきたいと願います。
次回は連載の最終回です。実際に、実業界でTPMを導入し、推進責任者として実践されたマツダの元常務執行役員の方から、実際のTPMの進め方や事例などを紹介させていただきます。なおマツダは、TPM優秀賞の最上位賞であるワールドクラス賞を受賞しています。
⇒前回(第5回)はこちら
⇒次回(第7回)はこちら
⇒本連載の目次はこちら
筆者プロフィル
和泉高雄(いずみ たかお)
日本能率協会コンサルティング 取締役 TPMコンサルティングカンパニー長
1984年、日本能率協会入職、日本プラントメンテナンス協会、JIPMソリューションを経て現職。早稲田大学 理工学術院 非常勤講師。日本プラントメンテナンス協会 TPM優秀賞審査員。工学院大学(生産機械工学科)、慶應義塾大学(経済学部)卒業。
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