きっかけは「スマホショック」、パナソニックがIoTに舵を切る理由:製造業×IoT キーマンインタビュー(4/4 ページ)
IoTがもたらす革新は、製造業にどういう影響をもたらしているのだろうか。大手電機のパナソニックでは、自社内や自社外でIoTを活用した業務プロセスやビジネスモデルの変革に積極的に取り組んでいる。危機感の裏付けになっているのが「スマホショック」だ。同社のIoT戦略を取り仕切るパナソニック 全社CTO室 技術戦略部 ソフトウェア戦略担当 理事 梶本一夫氏に話を聞いた。
大きかった「スマホショック」
MONOist IoTに取り組むうえで日本の製造業の課題をどう考えていますか。
梶本氏 スマートフォンの状況を見ると分かるが、日本の製造業はソフトウェアによる「コト」をベースとした価値の創出に対する感覚が鈍い。また協調と競争を組み合わせたエコシステムの構築などについても意識が乏しく、これらはIoTの世界でも課題となる。
われわれにとっては「スマホショック」は、大きかった。当時の失敗は、エコシステムを意識していなかったという点にある。日本の製造業は、もともとコスト競争力高く「ハコ」を作ることで、成長してきた。しかし21世紀に入り市場には機器群が満ち溢れ、製品のコモディティ化が加速する状況に陥った。一方で欧米メーカーはその頃には、スマートフォンなどで顧客のニーズに合わせる環境の提供と、ソフト・ハード開発者・消費者のエコシステム形成に進化しており、結果としてスマートフォンでは日本メーカーは軒並み撤退に追い込まれた。
パナソニックでもスマートフォンからの撤退に加え、LSI事業についても富士通との合弁会社へ外部化する状況に追い込まれた。同様の状況がIoTで生まれるとすると、その影響は大きくこの動きに置いて行かれるわけにはいかない。そういう意味では非常に強い危機感を抱えている。IoTによる変革の先にAI(人工知能)などデータをどう活用するかという世界が生まれることを考えれば、まずこのIoTの動きに積極的に取り組まなければならない。
IoT時代に勝ち抜く5つの処方箋
MONOist こうした状況で日本企業がIoTで勝ち抜くためにはどういうことが必要だと考えますか。
梶本氏 IoTによる変革のためには5つのポイントがあると考えている。1つ目が「ことづくりファースト、ソフトウェアセカンド、ハードウェアラスト」である。ソフトウェアによる「コトづくり」とエコシステム作りを中心とした戦略を組むという発想の転換が必要となる。2つ目が「オープンイノベーション」だ。エコシステム作りのために競争領域と協調領域を見定めつつ「損して得取れ」の社内プロセスを構築することが必要になる。3つ目が「ストック型のソフトウェア開発」である。エコシステムを作り上げるためにはソフトウェアを一から毎回開発するような環境では無理だ。ソフトウェアにノウハウ資産を蓄積し続けることが必要になる。
4つ目が、「コーディング重視・運用重視」である。ソフトウェアの開発や運用ができる人材を自社内に保有し、顧客ニーズに合わせて新規機能の開発をフレキシブルに行う体制が必要だ。こうした開発人員は外部化するような動きが日本では目立ったが、開発と製品の機能やサービスの距離が縮まる中でこれらの人材を育成することが重要となる。5つ目が「現場へのエンパワーメント」である。IoTに限らず全ての価値は現場から生まれる。こうした価値を最大化するためのトップマネジメントが必要である。
MONOist こうした取り組みはパナソニックでも実際に行われているのでしょうか。
梶本氏 必ずしも現状ではできているわけではないが、徐々に変わりつつあるところだといえる。パナソニックは従来はこうした動きにあまり強いとはいえなかった。しかし、スマホショックも含め、時代の変曲点を迎え、パナソニック内でも変革しなければならないという機運が高まっている。この新しい動きに対応していく。
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