きっかけは「スマホショック」、パナソニックがIoTに舵を切る理由:製造業×IoT キーマンインタビュー(3/4 ページ)
IoTがもたらす革新は、製造業にどういう影響をもたらしているのだろうか。大手電機のパナソニックでは、自社内や自社外でIoTを活用した業務プロセスやビジネスモデルの変革に積極的に取り組んでいる。危機感の裏付けになっているのが「スマホショック」だ。同社のIoT戦略を取り仕切るパナソニック 全社CTO室 技術戦略部 ソフトウェア戦略担当 理事 梶本一夫氏に話を聞いた。
インダストリー4.0で湧く工場のIoT化、5つのポイント
MONOist ドイツのインダストリー4.0など、産業分野のIoT化も加速しています。
梶本氏 ドイツのインダストリー4.0※)や、米国企業が中心となって立ち上げたインダストリアルインターネットコンソーシアム(IIC)など、産業分野のIoT活用が活発化している点については、注視している。現状では、工場内でIoT関連技術を活用することが目的になっている面なども見られるが、それでは本末転倒だ。IoT技術を活用することによって得られる効果に目を向けなければならない。
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製造現場におけるIoT活用の効果としては5つの点があると考えている。1つ目は、「開発効率と品質の向上」だ。製造過程のさまざまなデータを取得して分析することで、歩留まりを下げる要因をつぶしたり、品質の向上を実現できたりする。パナソニックでは、以前から製造品質の改善を図るために「メタゲジ(メーターやゲージで隠れたロスを見える化する)」や「イタコナ(製造において材料の原単位である板や粉のレベルから考えて原価改善を図る)」などの活動を進めてきたが、これらをITにより支えることで、製造現場の改善につなげられると考えている。
2つ目が「マスカスタマイゼーション」だ。これはマスプロダクション(大量生産)の効率で、カスタム製品を作る製造手法である。マスカスタマイゼーションを実現するためには、サイバー空間での仮想設計やシミュレーションなどを効果的に利用しなければならない。設計技術などでは、IoTにより実世界の情報を完全に仮想空間に再現し、その情報を実世界に反映させる「デジタルツイン」などの技術が注目を集めている。
3つ目が「トレーサビリティ」である。IoTの活用により、どの部品がどこで利用され、どの流通チャネルを通じて誰に利用され、どういう稼働をしているかをIoTにより全て把握することが可能になる。これらを使えば製造工程情報の記録とともに、販売後の遠隔メンテナンスや不具合解消などを実現できる。
4つ目が「IoTのIoT(IoTのInteroperability Testing)」だ。IoT技術の活用で製造機器の相互運用性が確保できるようになる。それにより、自社が弱い部分は他社の技術を活用し、エンドユーザーへの価値を高めることができる。制御コマンドやデータ取得の方法を統一することでアプリケーションの作成を容易にする他、地域ごとに機器メーカーが変わっても同様のデータを活用することが可能となる。それぞれの強みを自由に組み合わせられるようにすることで最終的な顧客価値を高め、市場全体の価値を引き上げることにつながり、各社の取り分を大きくすることにつなげられる効果があると考える。
5つ目が「アプリマーケットの創出」である。現在の製造機器は個別のプログラムが必要だが、相互運用性の確保などが進めば、スマートフォンのように機器の共通プラットフォーム化が進む。そうなると、ノウハウなどをアプリ化したアプリマーケットの登場が期待できる。アプリマーケットが生まれると、サードパーティー(製品自体の開発元や販売元でない企業)からのアプリなども登場する。従来にない粒度で、より詳細な条件や要望に応えた製造プロセスなどが可能になる。
プラットフォームの一翼を担う
MONOist こうした産業機器の環境の変化の中でパナソニックとしてはどういう立ち位置を狙うつもりでしょうか。
梶本氏 BtoC製品などではブランドもあるため、前面に出る場合もあるが、BtoBでは、パートナーシップや顧客との連携が必要だと考える。またBtoB領域でもアプリマーケットそのもののように自社を軸としたプラットフォーム全体を構築することを考えるよりもプラットフォームの一部を担えればよいと考える。
パナソニックが展開する、工場内で使う機器としては、グローバルでトップシェアを握る実装機があるが、インダストリー4.0やIICなどの動きを見据えつつ、それぞれに最適な形で協力しあえるような距離間を築いている。新たに2016年4月には、インダストリー4.0の主要メンバーであるシーメンスと、製造現場のデジタル化および連携のための標準化に向けて提携することを発表※)。最適な製造を行う独自の製造レシピについては自社内で押さえた上で連携できるところは連携することで、全体的な価値を高めていくことを考えている。
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