きっかけは「スマホショック」、パナソニックがIoTに舵を切る理由:製造業×IoT キーマンインタビュー(2/4 ページ)
IoTがもたらす革新は、製造業にどういう影響をもたらしているのだろうか。大手電機のパナソニックでは、自社内や自社外でIoTを活用した業務プロセスやビジネスモデルの変革に積極的に取り組んでいる。危機感の裏付けになっているのが「スマホショック」だ。同社のIoT戦略を取り仕切るパナソニック 全社CTO室 技術戦略部 ソフトウェア戦略担当 理事 梶本一夫氏に話を聞いた。
技術10年ビジョンで描く次世代ビジネス
MONOist 「Powered by Panasonic」としているが、具体的にはどういう取り組みを進めていくのですか。
梶本氏 パナソニックでは技術開発の方向性を示していくことで、よりよい暮らしや社会を実現するため「技術10年ビジョン」というものを策定している。この中でエネルギー領域とともに、テーマとして取り組んでいるのがIoT/ロボティクス領域である。具体的には「AIロボティクス家電」「自動運転・コミュータ」「店舗・接客ソリューション」「次世代物流・搬送」を重点領域として取り組んでいる。人工知能技術やセンシング技術、UI(ユーザーインタフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)技術を深め、出口戦略に基づけた顧客価値を提供していくことを重視している。
「AIロボティクス家電」を象徴するのが、2015年のCEATEC JAPANに出典された、洗濯物を折りたたむロボット「laundroid」だ※)。同ロボットはseven dreamers laboratoriesや大和ハウス工業と開発を進めているが、自動化技術やロボット技術などを駆使することで実現する。ただ、この領域で重視するのも最終的な顧客価値である。例えば、韓国のサムスン電子は2017年までに全ての家電製品をインターネットにつなぐことを表明している。こうした取り組みはプロダクトアウト的な発想で、必ずしも顧客価値につながらない点も出てくる。パナソニックではあくまでも顧客価値を中心にマーケットインの発想でIoT関連技術を採用していく。
※)関連記事:家庭の洗濯物“折り畳み”をロボット技術で自動化、2016年度内に予約開始
MONOist IoTの実現にはパートナーとの関係性が重要だと述べていましたが、こうした「技術10年ビジョン」で描くような将来的な技術については、パートナーを決めているのでしょうか。
梶本氏 既にパートナーを決めて取り組みを進めているところもあるが、これから新たなパートナーシップを組むところもある。また、現在までのところでパートナーシップを実現し、既に成果が出ているIoTの活用領域なども存在する。
例えば、トヨタ自動車(以下、トヨタ)との提携で進めているテレマティクスサービス「T-Connect」と連携し家電を操作するアプリを提供。自動車から帰宅前に家電などを操作し、エアコンをオン/オフできるような機能を提供している。またダイワハウスとの提携により新型HEMS「D−HEMS 3」などの実現にも貢献している。
「つながるサービス」で成果を残すアビオニクス事業
MONOist 現状までのところで、パナソニックの中でのIoTの成功事例としてはどういう事業がありますか。
梶本氏 IoTの活用および実ビジネスでの成果という点で、最も成功しているといえるのがアビオニクス(航空機向け電子機器)事業だ。パナソニックでは、1980年から航空機内のエンターテインメント機器の提供を開始し、オンデマンド対応やWi-Fi対応などの機能進化を進め、高シェアを獲得している。
Wi-Fi対応については、Wi-Fiだけでなく電波を受発信するレーダーや通信衛星の運営までをパナソニック内で行い、高速移動する航空機内での安定したネットワーク接続を実現している。アビオニクス事業では、このWi-Fi技術を生かし、航空機内の各種端末の予防保全を実現していることが特徴だ。ネットワーク技術を生かして、IoTによるつながるサービスを実現したというわけだ。
具体的には、通信衛星を使い、機内のシステムの状態を飛行中も座席個別レベルで把握することが可能になる。そのため修理が必要な場合でも、着陸と同時に修理を行うことができ、航空会社の補償費低減や航空機の稼働率向上に貢献することができている。これらのサービスビジネスを展開するために拠点空港64カ所にメンテナンスセンターを開設中で現在も増設中である。IoTによるサービスビジネス化という話ではGEの航空機エンジンの話がよく話題に出る※)が、同様の取り組みを航空機内のエンターテインメント機器で行っているといえる。
※)関連記事:IoTで“5つの競争要因”はどう変わるのか
実際に、IoTサービスを展開してからアビオニクス事業ではシェアが高まっており、実ビジネスに対しても大きな成果を残せている。同様の成功事例を他の分野でも生み出していくことが目標である。
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