ITSの意味は「高度道路交通システム」でなく「賢い道路づくり」であるべき:日本ITS推進フォーラム基調講演レポート(2/2 ページ)
ITSジャパンが開催した「日本ITS推進フォーラム」の基調講演に、東京大学大学院 工学系研究科 教授 家田仁氏が登壇。高度な情報技術を使っただけの交通システムではなく“賢い道路づくり”を目指して転換していくよう呼びかけた。
短距離移動なのに使いやすい高速道路、信号の待ち時間を半減する方法
日本では高速道路は長距離移動に使うものとして定着しているが、ETCインフラの使い方次第で「短距離移動にも便利な高速道路をつくることができる」(家田氏)という。その例として挙げたのが、短い間隔でETCの料金所を設置しているカナダ・トロント市の407号線である。「日本の高速道路は首都圏の一部を除いて料金所の間隔が10kmと長い。そのため、移動距離が40km以下の場合、高速道路の利用率は1割以下にとどまる。407号線のように短い間隔でETCの料金所を設け、幹線道路に接続しやすくしておけば高速道路の短距離利用を促進し、交通流の改善が期待できる」(同氏)と説明した。
トロント市の407号線にETCの料金所が多いのはインフラの簡易さによるところが大きい。ETCの路側機とナンバープレートを撮影するカメラがあるのみで、ゲートなどは設けていない。「料金所を増やすためにとにかく低コストにしようという発想は日本と大きく違うところだ」(同氏)。料金の収受をETCに置き換えるという考え方ではなく、交通流を根本的に改善する目的で、高速道路を作った一例だ。
家田氏は、大規模な交通課題だけでなく、地域特有の課題の解決もITSの役目だと述べる。高知県高知市を走る路面電車は停車場がなく車道の車線上で乗降する。このため、利用客の安全確保が課題だった。地元の大学や警察、道路管理者で連携し、電車の接近を発光鋲や照明灯、情報表示板を活用して注意喚起する対策を実施した。こうした取り組みは日本各地にあり、ITSの取り組みとして束ねていくべきだとしている。
ITSは、高度な情報通信技術だけでなくアナログなアプローチとも組み合わせていくべきだと話す。「効率のよい輸送をするためには、時間と空間をうまく管理する必要がある。英国には、時速50kmで走行すれば青信号で通過できることを示す表示がある。それより速いスピードでは信号で止まるというものだ。日本の信号はスムーズに交差点を通過させることを考えていないのではないか。“賢い信号”を作る方法は、アナログな仕組みも有効だ」(同氏)。
アナログな仕組みを活用し、家田氏は2009年に東京都内で信号の待ち時間を短縮する実証実験に取り組んだ。実験を実施した場所は片側4車線の道路が交差する霞ヶ関2丁目。歩行者が横断歩道を渡り切る時間を考慮しているため、信号待ちは140秒にも及ぶ。「赤信号が長いと良いことは何もない。イライラする人が増えるしアイドリングで排気ガスも出続ける」(同氏)。
実験では、信号の途中に立ち止まれる場所を設け、渡り切れなかった人が信号待ちできるようにした。これにより、信号を切り替えるサイクルを140秒から75秒に短縮することができた。アナログな仕組みが交通を改善する可能性はまだ広がっているといえる。
非常時のサービス
家田氏は、非常時のサービスにも言及した。「非常時というのは渋滞や交通事故ではなく、自然災害も含めたい。例えば津波が来た時にどちらに逃げるべきか、豪雨でアンダーパスは通れるのか、知りたいことがあるはずだ」(同氏)。こうした際に情報を得る手段も、まだ完全には確立できていないと指摘した。「高速道路にはVICSやハイウェイラジオが届かない空白地帯がある。実際にそこで渋滞に巻き込まれ、原因を知る方法がなく困ったことがある。高速道路の車線を増やすだけでなく、情報の抜け落ちを防ぐ取り組みも必要だ」(同氏)と述べた。
最後に同氏は「これまでのITSがたどってきた20年のパラダイムの外には、たくさんの世界が広がっている。そこを見落とさないことが今後のITS開発の課題だ」と締めくくった。
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