ITSの意味は「高度道路交通システム」でなく「賢い道路づくり」であるべき:日本ITS推進フォーラム基調講演レポート(1/2 ページ)
ITSジャパンが開催した「日本ITS推進フォーラム」の基調講演に、東京大学大学院 工学系研究科 教授 家田仁氏が登壇。高度な情報技術を使っただけの交通システムではなく“賢い道路づくり”を目指して転換していくよう呼びかけた。
ITSジャパンは2016年2月18日、東京都内で「日本ITS推進フォーラム」を開催した。ITS(高度道路交通システム)の普及促進のため関係する省庁/団体とともに毎年実施しており、2016年で10回目を迎えた。基調講演には東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻の教授 家田仁氏が登壇。ITSの次の20年を見据え、高度な情報技術を使っただけの交通システムではなく“賢い道路づくり”を目指して日本の自動車産業が転換していくよう呼びかけた。
カーナビやETCは普及したが、ITSは無名のまま
家田氏は来場者の大半を占める男性に対し「皆さんの奥様はITSについてご存じだろうか」と話し始めた。「私の妻はカーナビゲーション(カーナビ)やETCの便利さはよく理解しているが、それらの製品を包括するITSのことは知らない。説明すると、ITSなんてカーナビのどこにも表記されていないと言い返されたことがある」(家田氏)と、ITSそのものは一般的には浸透していないことを指摘した。
ITSの20年余りの歴史で、国内の成功例といえるのがカーナビとETCの普及だ。一方で、同氏はITS開発のパラダイムに偏りがあったと振り返る。「ITSがターゲットとしてきたのはドライバーや健常者だけで、歩行者や自転車、ドライバー以外の乗員には目が向けられていなかった。また、発想のベースは、紙の地図をカーナビに、高速道路料金の利用料収受を手作業からETCへといった、既存機能の置き換えにあった。活用する技術も情報通信分野にばかり目が向いていたり、ITSを提供する側の考えや都合を優先したりするところもあった。クルマを中心に据えるのは当然だが、クルマ以外の存在を見落としていたのではないか」(同氏)と述べた。
ITSの反省点を振り返るだけではなく「不便だったり危険だったりする交通環境を改善するのは誰もが賛成することだ。その点ではITSを応援する人は多いはずだ」(同氏)とする。しかし、道路や自動車に目を向けた技術開発を続けても、ITSは一般市民から支持されないと念を押す。「手を離してもクルマを運転できる様子をテレビなどで見かける。自動運転技術の進歩は確かに素晴らしいが、手を離して運転できることの恩恵は誰のためにあるのか。車両が歩道に進入したり、バスの乗員が多数亡くなったりした悲惨な交通事故のニュースを見るたびに、実現すべき技術は他にあるように思う」(同氏)。
次の20年で“無名のITS”から脱却するヒントとなる、国内外の事例を紹介した。
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