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加速するITSの進化プローブ情報とEVで“エコシフト”(1/4 ページ)

ITSとは、ITを自動車に適用することにより、自動車の安全性や利便性、環境性能を高めるシステムの総称である。本稿では、まず、国内、米国、欧州におけるITSに関する取り組みについて、無線通信技術の規格化の状況を中心にまとめる。そして、今後ITSが進化していく上で重要な役割を果たすであろう、プローブ情報と電気自動車との関係性について紹介する。

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実用化で先行する日本、欧米は協調体制を鮮明に

 ひと言でITS(高度道路情報システム)といっても、その言葉を適用できる範囲は広い。ITSの促進を目指す民間団体であるITS JapanとITS関連の4省庁(国土交通省、経済産業省、総務省、警察庁)は、ITSが対象とする開発分野として、「ナビゲーションシステムの高度化」、「自動料金収受システム(ETC)」、「安全運転の支援」、「交通管理の最適化」、「道路管理の効率化」、「公共交通の支援」、「商用車の効率化」、「歩行者などの支援」、「緊急車両の運行支援」の9つを挙げている。何らかの技術があったとして、それがこれら9つの分野に何らかの形で関連してさえいれば、それをITS技術と呼んでも間違いではない。つまり、ITSという言葉には明確な定義はない。自動車/電子機器/通信機器業界における一種の“バズワード”なのだ。

 ITSがバズワードであるとしても、ITSの技術的な主眼は、IT(情報技術)を交通システムにどのようにして適用/応用するかにあると言うことができる。そこで、最も重要になるのが通信技術である。ただし、自動車は移動体なので、初期のITの進化を支えた有線の通信技術は、車両内部での通信にしか適用できない。道路上のインフラと車両の間で通信を行う路車間通信や、車両と車両の間で通信を行う車車間通信には、無線通信に関する技術開発や規格化が求められることになる。

表1日本/米国/欧州のITS向け無線通信規格
表1 日本/米国/欧州のITS向け無線通信規格 

 現在、ITSに関する技術開発を主導しているのは、日本、米国、欧州である。これら3つの国/地域は、ITS向けの無線通信技術として、それぞれ異なるものを用いる方針だ。それぞれの国/地域で利用される予定のITS向け無線通信規格の概要は表1に示したようなものとなっている。以下では、日本、米国、欧州のそれぞれにおいてITSに関してどのような取り組みが行われているのか、ITS向けの無線通信規格を中心にして紹介する。

日本は新VICSと700MHz帯

 日本のITSでは、路車間と車車間で、それぞれに異なる無線通信規格を用いて通信を行う可能性が高い。そこで、路車間通信と車車間通信、それぞれの現状を順に説明する。

■路車間通信

 日本では、1995年ごろから官民挙げてのITS技術開発に取り組んできた。これまでの15年の間に、いくつかの成果が上がっており、実際のシステムとして運用されているものも多い。その代表と言えるのが、VICS(道路交通情報通信システム)とETCの2つの路車間通信システムだ。1996年にサービスを開始したVICSは、渋滞や交通規制などの道路交通情報をリアルタイムに提供するというものである。情報提供の手段としては、2.4GHz帯域の無線通信を用いる電波ビーコン、赤外線を用いる光ビーコン、FM放送波の3つの方法が組み合わせて用いられる。一方、2001年にサービスを開始したETCは、高速道路の料金収受を料金所で停車することなく行うことができるシステムである。こちらは、5.8GHz帯域の無線通信を用いている。

 VICSとETCが、無線通信の基盤技術として利用しているのが、DSRC(専用狭域通信)である。DSRCは、Wi-Fiなどの近距離無線通信技術と違い、利用可能な通信範囲を数mから数百mまでの間で意図的に限定することができる。特に、ETCのような料金収受を行うシステムでは、DSRCのように通信範囲を限定できる技術が有効である。

 そして、2010年度からは、日本のITSの路車間通信における最新技術が本格運用の段階に入る。それは、国土交通省道路局が推進する「スマートウェイ構想」に基づく技術で、従来のVICSと比べてより豊富な交通情報を、5.8GHz帯のDSRCを使って車載機に伝達するというものである。ユーザーが受けるサービスとしてはVICSの延長線上にあることから、「新VICS」と呼ぶこともある。新VICSの路側機の導入については、日本政府の2009年度補正予算において250億円の予算が組まれている。これによって、2010年度末までに、全国の高速道路に約1000基の路側機が設置される予定である。

 新VICSに用いられているDSRCは、ETCのDSRCよりも性能が向上している。VICSやETCの路側機の大手サプライヤである沖電気工業でITS推進センタ長を務める中ノ森賢朗氏は、「例えば、ETCのDSRCのデータ伝送速度が1メガビット/秒(Mbps)であるのに対し、新VICSではそれを4Mbpsまで向上した。スマートウェイ構想では、この速度向上によって、道路情報の提供や料金収受だけでなく、観光スポット情報や動画の配信などを実現することも考えている」と語る。

 新VICSのDSRCで用いられる無線通信規格は、ETCの規格を発展させたものだ。このことから、新VICS対応の車載機にはETCの機能を容易に持たせることができる。実際に、三菱電機やパナソニックが販売している新VICS対応の車載機は、ETCの機能も搭載している。

■車車間通信

 一方、車車間通信については、2つの周波数帯の通信規格が提案されている。以前は、新VICSに用いられているDSRCをベースにした5.8GHz帯の無線通信規格を利用する方針だった。しかし、2007年末に、総務省が715MHz〜725MHzまでの帯域を、車車間通信に割り当てることを決めた。この帯域は、現在、地上アナログテレビ放送が使用しており、2011年7月に地上デジタルテレビ放送へ完全に切り替わった後、2012年から利用できるようになる。

 この決定以降、日本のITSにおける車車間通信の技術開発は、この700MHz帯を中心に進められるようになった。その無線通信規格は、海外のITS向け無線通信規格の策定動向(後述)に対応するために、変調方式としてOFDM(直交周波数分割多重方式)を採用する方針だ。なお、DSRCには、ASK(振幅偏移変調方式)とQPSK(4相位相偏移変調方式)が用いられている。このため、700MHz帯の車車間通信と、DSRCを用いる路車間通信の間では互換性に乏しい。

 車車間通信に700MHz帯を用いることについては、メリットとデメリットの両方が考えられる。まず、メリットとしては、700MHz帯が、遮蔽物の影響を受けにくいなど、通信を行う上で都合の良い特性を備えていることである。5.8GHz帯は、700MHz帯と比べると電波の直進性が高いため、交差点や都市部における車車間通信では使用しづらいという意見が多い。それに対し、「700MHz帯は、『ダイヤモンドバンド』とも呼ばれ、誰もが利用したいと考えている貴重な帯域」(ルネサス エレクトロニクスの技術者)だという。

 他方、700MHz帯のデメリットとしては、米国と欧州のITS向けの通信帯域が5.9GHz帯であることが挙げられる。5.9GHz帯と700MHz帯とでは、車載機や路側機に搭載する発振回路だけでなく、電波特性の違いによってアプリケーション開発の方向性も異なってくることになる。その場合、携帯電話機と同様に、日本国内だけに閉じてしまってグローバル展開が行えない“ガラパゴスITS”にならないとも限らない。

 ITS Japanで専務理事を務める天野肇氏は、「最近になって、米国が700MHz帯をITS向けに利用しようとする動きも見られる。また、日米欧以外では、まだITS向けにどのような通信帯域を割り当てるのかも決まっていない状態だ。日本で、700MHz帯を用いた車車間通信を利用するITSの開発を早急に進め、技術の優位性を知らしめることができれば、十分にチャンスがある」と見ている。

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