米国で進む医療機器とビッグデータ連携のためのルール整備:海外医療技術トレンド(9)(3/3 ページ)
デバイスとしての医療機器は、モノのインターネット(IoT)を介してビッグデータと連携する。米国では、データ利活用に向けた標準化への取り組みも急ピッチで進んでいる。
比重が高い健康医療/ライフサイエンスのユースケース
ビッグデータ相互運用性フレームワークでは、個別領域の具体的なユースケースとして、政府機関(4件)、商業(8件)、国防(3件)、健康医療/ライフサイエンス(10件)、ディープラーニング/ソーシャルメディア(6件)、天文/物理(5件)、地球/環境/極地科学(10件)、エネルギー(1件)が収録されている。例えば、健康医療/ライフサイエンスの領域では、下記のようなトピックが取り上げられている。
- 電子カルテデータ
- 病理診断画像化/デジタル病理診断
- 計算バイオイメージング
- ゲノム測定
- メタゲノムとゲノムの比較分析
- 個別化された糖尿病管理
- ヘルスケアのための統計合理的人工知能
- 世界人口規模の疫学研究
- 計画、公衆衛生、災害危機管理のための社会的感染モデリング
- 生物学的多様性とライフウオッチ
これらのうち、医療機器開発者になじみが深い、病理診断画像化/デジタル病理診断のユースケースを簡単に紹介しておこう。図2はその全体イメージだ。
図2 病理診断画像化/デジタル病理診断システムの全体イメージ(クリックで拡大) 出典:NIST Big Data interoperability Framework Version 1.0.(2015年9月)
ユースケースでは、トランスレーショナルリサーチに従事する生物医学研究者や、画像誘導診断に従事する病院の医師が、画像から空間情報を抽出するために、パフォーマンスの高い画像分析アルゴリズムを開発。効率的な空間のクエリ/分析を提供して、クラスタリングと分類を特徴付けることを想定している。
プラットフォームとしては、外部ネットワークと接続した分散型ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)環境上で、画像解析用メッセージパッシングインタフェース(MPI)をモデルとした、オープンソースのMapReduceと空間拡張付Apache Hiveが稼働する環境となっている。ビッグデータ分析アプリケーションとしては、画像解析、空間的クエリ/分析、クラスタリング/分類機能などが装備されている。
データソースは、人間の細胞組織からデジタル化した病理画像で、データ容量は、中規模程度の病院で年間1ペタバイト(PB)程度だ。ビッグデータ処理固有の課題としては、超大容量、多次元、疾病固有の分析、他のデータタイプ(例:臨床データ)との相関関係などが挙げられている。
このように、現在米国では、IoT機能を装備した医療機器開発と同時並行で、医療ビッグデータ利活用のためのさまざまなユースケースが開発されている。ハードウェア開発の段階においても、ビッグデータならではの技術要件をどこまで盛り込めるかが、大きな課題だ。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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