医療従事者の暗黙知を人工知能で生かす、まずは入院時の転倒・転落の防止から:医療ビッグデータ(1/3 ページ)
NTT東日本関東病院とUBICは、人工知能を使って電子カルテの情報を解析し、入院患者の不意の転倒やベッドからの転落などを防止することを目的にした共同研究を始めた。早ければ2015年度内にもプロトタイプシステムを導入・運用したい考えだ。
NTT東日本関東病院とUBICは2015年3月16日、UBICの人工知能「バーチャルデータサイエンティスト」を使って電子カルテの情報を解析し、医療における予測困難な有害事象の防止を目指すための共同研究を始めたと発表した。
まずは、入院患者の不意の転倒やベッドからの転落などを防止することを目的に、医師や看護師が電子カルテに記入した自由記述の項目から転倒・転落につながる予兆を人工知能によって抽出するための共同研究を行う。これまでに行った先行評価から、一定の効果が得られるめどが立ったため、今後はより大規模なデータを対象にした検証と予測ロジックの確定を行い、早ければ2015年度内にもプロトタイプシステムの導入・運用を始めたい考えだ。
NTT東日本関東病院 病院長の亀山周二氏は、「当院は米国の国際医療機能評価機関であるJCI(Joint Comission International)の認証を取得している。JCIの国際患者安全目標(IPSG)には6つの項目があり、その1つに転倒による患者の障害のリスク軽減がある。この転倒や転落は高齢者に多いが、今後の日本で高齢化がさらに進むと、転倒・転落のリスクはさらに高まることになる。UBICの人工知能のようなコンピュータ技術を活用すれば、そういったリスクを軽減できることが分かってきた」と語る。
UBIC社長の守本正宏氏は、「われわれの人工知能は、クイズに答えたり、人と会話したりといったことはできないが、ぼう大なテキストデータから重要な情報を抽出する用途で力を発揮する。訴訟関連などリーガル分野では高い実績があるが、医療分野は初の取り組みになる。これまで医療従事者が付随的に行わなければならなかった作業を人工知能が肩代わりすることで、より患者の意向に沿った医療行為を行ってもらえるようになる。決して人の仕事を奪うわけではない」と説明する。
患者に向きあう時間が減少
社会の高齢化に伴い、病院の入院患者の高齢化も進んでいる。NTT東日本関東病院では、入院患者のうち60歳以上の割合が、2007年の53%から、2010年に60%、2013年に62%と年々増加している。さらに、手術や抗がん剤治療といった侵襲の大きい(=体に大きな負荷が掛かる)治療行為を行う対象の高齢化が進む一方で、在院日数は10〜14日程度と短くなっている。「短期間で大きな負荷の掛かる治療行為を行うということは、転倒・転落につながるリスクの変動も大きくなる」(同病院)という。
一方で、医療従事者側は、短い在院日数による患者の入れ替わりの早さで常に状況を把握することが難しくなっている。治療行為にとどまらない患者に行うべきケアの増加に加えて、増加する検査装置のモニタリングへの対応、電子カルテなどへの記録や書類の作成が煩雑化している。こういった業務の多忙さによって、患者に向きあう時間が減少するという状況も生まれているのだ。
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