医療従事者の暗黙知を人工知能で生かす、まずは入院時の転倒・転落の防止から:医療ビッグデータ(2/3 ページ)
NTT東日本関東病院とUBICは、人工知能を使って電子カルテの情報を解析し、入院患者の不意の転倒やベッドからの転落などを防止することを目的にした共同研究を始めた。早ければ2015年度内にもプロトタイプシステムを導入・運用したい考えだ。
このままでは高齢化に対応できない
転倒・転落の要因は大まかに分けて、薬物、運動機能、視覚・聴覚、栄養状態、痛み、精神状態の6つがある。NTT東日本関東病院では、患者の入院時や手術時などに転倒・転落リスクアセスメントシートを作成して、転倒リスクを低/中/高の3段階で分け、評価に応じた対応を実施するなど、さまざまな取り組みを行ってきた。2014年も、睡眠薬の服薬量が転倒・転落の大きな原因になっているというアンケート結果を基に服薬量を制限し、転倒・転落の発生率を約20%低減させることに成功した。しかし「さらに高齢化が進んだ場合に、これらの取り組みで対応できるか疑問だ」(同病院)として、新たな施策を検討していた。そこで注目したのがUBICの人工知能だった。
今回の共同研究は3段階に分けて進められる。第1段階は、少量のデータを用いて転倒につながる可能性の高い意識障害の症状を抽出するというもので、2015年2月に実施された。まずは、NTT東日本関東病院のエキスパートが、転倒につながる可能性の高い意識障害を選び出し、7人の患者の17件のデータを該当症状と判定し、電子カルテから見つけ出したいデータとした。さらにランダムサンプリングで得た1000件のデータをその他のデータ(見つけたい以外のデータ)のサンプルとした。これら1017件のデータが、人工知能を学習させるための教師データになる。
そして、学習を終えた人工知能が、ランダムに抽出した93人分に先述の7人分を足した100人分のデータ1万6749件に対して0〜1万点でスコア付けを行う。このスコアが高いほど意識障害を起こす可能性が高い。
スコア付けの結果、スコアの高い上位約1000件に、転倒・転落につながる注意力の低下や意識障害の症状が見られた。「上位約200件については、実際に意識障害を起こしていた」(同病院)という。
疲れることのない人工知能が24時間安定的に業務を担う
今回、人工知能が意識障害の症状を抽出するのに用いたのは、電子カルテの自由記述だ。患者や家族の発言、医療従事者の観察結果などを記述している部分で、患者ごとの個別性が高く、リスクアセスメントシートのような定量化がしにくい。NTT東日本関東病院は、「この自由記述には、転倒・転落につながる注意力の低下や意識障害の兆候が隠されており、これまでは医療従事者が暗黙知によって抽出していた。しかし、疲れることのない人工知能が24時間安定的にこの業務を担ってくれれば、限られている医療従事者のリソースを患者のケアに活用できるようになる」としている。
人工知能による意識障害の症状の抽出は、3交代制で勤務している看護師間の情報伝達を正確に行う上でも役立つ。「ある自由記述から、全ての医療従事者が同じように意識障害の有無を見分けられるとは限らない。ある看護師が何となく『おかしい』と感じていたとしても、それは感覚的ななものなので、明確に次に交代する看護師に伝えるとは限らない。しかし、後から考えるとそれは意識障害の兆候だったということは多い」(同病院)からだ。
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