医療ビッグデータの利活用で世界をリードするデンマーク:海外医療技術トレンド(7)(1/3 ページ)
国民共通番号制度とナショナルデータベースで、日本の先を行くデンマーク。医療ビッグデータ利活用のための仕組みづくりも進んでいる。
なぜ、IBM、Cisco、Appleがデンマークへ進出するのか?
2015年12月10日、IBMは、デンマークの製薬企業Novo Nordisk(ノボノルディスク)と、コグニティブコンピューティング技術「IBM Watson」によるヘルスケアクラウド基盤「Watson Health Cloud」を活用した、糖尿病患者向けケアソリューションの開発で提携すると発表した(関連情報)。
IBMはデンマーク国内にヘルスケアコンピテンスセンターを設置し、ライフサイエンスから医療現場に至るまでの健康医療バリューチェーン全体に関わるソリューションの研究開発を行ってきた。人材育成の面では、デンマーク工科大学と提携して、「IBM Watson」を中核とするデータサイエンティスト育成プログラムを支援している。
同じデンマーク国内では、「Internet of Everything」を提唱するCisco Systemsが、コンティニュア・ヘルス・アラアンスを相互接続性の共通規格として、各自治体との官民連携パートナーシップ(PPP:Public-Private Partnership)による遠隔医療関連プロジェクトを展開している他、IBMとパートナーシップを結ぶAppleも、2017年からの操業開始をめざして、データセンターを建設中である。
このように、ヘルスケア事業に注力する北米のグローバル企業が相次いでデンマークに投資する誘因となっているのが、国民共通番号(CPR:Central Persons Registration)制度や電子政府、電子カルテのシステムをベースとして構築されたナショナルデータベース(NDB)に代表される医療ビッグデータの存在だ。
制度的な仕組みと市民参加型テクノロジーが融合するデンマークモデル
デンマーク政府は、1968年に国民共通番号制度を導入し、住民個人ごとに付与された一意の番号の下で、登録情報全体が一元的に管理できる仕組みを構築した。その後、「電子政府戦略 2011-2015」に基づき、ペーパーレス化、福祉サービスの電子化、公的部門間の連携強化を図ってきた。現在は、公的部門自体の生産性・効率性強化、公的サービスによる市民や企業のための付加価値創造、公的部門のデジタル化によるビジネス成長支援を柱とする「新電子政府戦略2016-2020」の推進フェーズに入っている。
また、デンマーク政府は、デザインドリブンアプローチの発想と、先進的な医療・介護福祉制度を支えてきた参加意識の高い国民性を背景に、「オープンデータイノベーション戦略(ODIS)」や「オープンガバメントパートナーシップ(OGP)」を推進している。本連載第6回で触れたブロックチェーン技術を応用した電子投票システムの提案も具体化しつつある。
社会的課題を解決するための制度的仕組みづくりと市民主導型の新規技術導入/利活用のハーモナイゼーションに長けたデンマークの先進性は、医療ビッグデータの領域でも生かされている。現段階で、がん登録(1943年開始)、死亡原因登録(1943年開始)、市民登録システム(1968年開始)、医療出生登録(1973年開始)、全国患者登録(1977年開始)、乳がん共同グループ登録(1977年開始)、全国処方箋データベース(1997年開始)、病理データベース(1999年開始)、脳卒中登録(2003年)など、全国を対象としたナショナルデータベース(NDB)が数多く運用されている。
日本では、2015年12月10日、厚生労働省の「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」が報告書を公表し(関連情報)、2020年までに「医療等ID」の本格運用を開始する方針が打ち出されたところだが、国民共通番号制度で約40年先行するデンマークは、医療ビッグデータのさらなる利活用の段階に入っている。
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