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日本発の無線規格「Wi-SUN」、国際展開への飛躍を阻む4つの問題IoT観測所(17)(3/3 ページ)

IoTにまつわる標準化規格で数少ない日本発の規格が「Wi-SUN」だ。家庭向けに低消費電力でメッシュネットワークを構築できるWi-SUNの特徴と、国際的なデファクトスタンダード化を阻む問題について解説する。

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「国際標準への飛躍」を阻む4つの問題

 日本国内においてはそれなりのシェア獲得が確定しているWi-SUNだが、その先はあるのか?というのが次の問題である。Wi-SUNのベースとなるIEEE 802.15.4gは国際的に使われることを念頭に置いた規格であるが、日本以外で普及させるためには難しい問題が幾つかある。

 1つ目は周波数帯である。Wi-SUNが利用を想定している902〜928MHz(915MHz帯)は全世界共通で使うことが難しい周波数帯である。利用できる周波数帯を国別に挙げれば、以下のようになり、共通して使える周波数は920〜920.8MHzしかないことになる。

902〜928MHz(915MHz帯)で利用できる周波数帯(国別、一例)
米国 902〜928MHz
日本 915〜928MHz
韓国 917〜920.8MHz
中国 920〜924.5MHz
台湾 922〜928MHz

 ヨーロッパでは、915〜921MHzを利用可能とする議論が行われているが、現時点では利用不可能である。なのでWi-SUNの920〜928MHzを使えるのは日本と米国のみ、となっており、これがまず大きなネックである。将来的にはスマートフォンの利用周波数帯がグローバル対応したようにIEEE 802.15.4gの仕様を拡張し、各国別で異なる周波数を利用できるようにする可能性はある。ただ、そこまでのコストを誰が負担するのかという問題は残るだろう。

 2つ目は上位プロトコルにECHONET Liteを利用することだ。ECHONETは2009年に国際標準規格化が完了しており(ISO/IEC 24767-1,2)、2015年10月にはECHONET LiteもISO/IEC 14543-4-3:2015として標準化が完了している。ただ、国際標準規格になったから使われる、というものでは無い。

 実際、エコーネットコンソーシアムの会員企業一覧を見ると、Texas InstrumentsやFreescale Semiconductor(2015年からはNXP Semiconductorsだが)などの日本子会社を持つ企業を除いた場合、海外企業は台湾のPowerTechTSGIA(Taiwan Smart Grid Industry Associatio)、韓国のLSIS、マレーシアのNational Advanced IPv6 Center of Excellenceの4社しかない。この状況では、国際展開など望むべくも無い。

 3つ目は、ECHONET Lite以外への対応が遅れていることだ。ECHONET Liteを利用する限り日本国内でしか通用しないので、海外では別の規格と組み合わせる必要がある。先に書いたようにNICTではoneM2Mへの対応を検討中である。一応oneM2Mは、Release 2でAllSeenとの相互運用性が実現できる「可能性がある」ので、うまくいけば上位層にAllSeenが利用できる事になるが、このあたりはまだ流動的である。万が一ダメだった場合にはどうするのか?という疑問への答えも現状では見えていない。

 4つ目がコストの問題である。現状、Wi-SUNモジュールの価格は結構高い。これはもう量産効果がどれだけ見込めるかという話だが、電力会社のスマートメーターの場合は競争原理が働きにくいから、どうしても価格が高止まりする傾向にある(無理に値段を下げなくても売れるとあれば、値段を下げる理由はない)。しかし、高止まりしているままでは国際的な競争力は劣る。

 この4つの問題をどうにか解決しない限り、Wi-SUNは日本国内でのみ利用されるローカルな規格を脱するのは難しいと筆者は考えている。

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