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日本発の無線規格「Wi-SUN」、国際展開への飛躍を阻む4つの問題IoT観測所(17)(1/3 ページ)

IoTにまつわる標準化規格で数少ない日本発の規格が「Wi-SUN」だ。家庭向けに低消費電力でメッシュネットワークを構築できるWi-SUNの特徴と、国際的なデファクトスタンダード化を阻む問題について解説する。

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日本発のIoT国際標準規格「Wi-SUN」

 これまで連載で紹介してきた標準化規格はほぼ全てが海外(主にアメリカ)で策定されたものだが、日本発の標準化規格も存在する。それが今回ご紹介する「Wi-SUN(Wireless-Smart Utility Network)」である。

 Wi-SUNは、NICT(情報通信研究機構)が建物内の電気・ガス・水道などで用いられるメーターの自動検針や状況監視、動作制御などの目的で行っていた無線技術の開発がベースとなっている。NICTが賢明だったのは、この無線技術方式を独自規格ではなく標準規格に持ち込んだ事だ。

 最終的に2012年5月、この方式は「IEEE 802.15.4g」として標準化が実現している。ちなみにこれを「IEEE 802.15.4g/4e」と表記する場合もあるが、これはIEEE 802.15.4gを実現するために、物理層のみならずMAC層にも若干の変更が必要になっており、これに対応したのがIEEE 802.15.4eとなっている。

 この標準化にまつわる作業はNICTだけでなくElsterItronLandis+Gyr、それにSilver Spring Networksといったスマートメーターの分野で先進的な企業と一緒になって行ったものだが、これと並行してIEEE 802.15.4gを利用したスマートメーターのための業界団体も2012年1月に立ち上げた。それが「Wi-SUN Alliance」である。

 Wi-SUN Allianceのメンバー企業一覧はこちらから確認できる。2016年1月上旬の時点ではPromotorが9社/団体、Contributorが68社/団体、Adopterが2社、Observerが6社/団体といったところで、結構な規模の団体となっている。

 このWi-SUN AllianceはIEEE802.15.4gをベースにしたWi-SUNの技術標準の策定と、Wi-SUNの認証プロセスの確立、相互接続試験の実施などを担っており、既にWi-SUNの認証を取得した製品も世の中に複数投入されている。

Wi-SUNの技術的特徴

 さてそのWi-SUNであるが、特徴は超低消費電力で、かつ広い伝達距離を実現していることだ。目標は「単三形乾電池3本で10年以上の動作が可能で、しかも通信距離は最大500m程度」とされており、これを実現するために、920MHz帯の電波を使う。

 一般論として電波の周波数が低い、あるいは電波の出力が大きいほど到達距離が伸びる傾向がある。例えば2450MHz帯(2.4GHz帯)を利用する他の規格で言えば、Wi-Fiはアンテナ数を増やしたり(MIMOを利用したビームフォーミング)、出力を上げたりすることで到達距離を伸ばせるが、これでは消費電力も大きくなる。

 逆に省電力に注力したBluetoothの場合、音声伝送などに使われるBluetooth 3.xだと100mは届くかもしれないが、さらに省電力性を高めたBluetooth 4.xだとその距離は10m未満でしかない。もしWi-SUNで2.4GHz帯を利用して500mを実現しようとすると、単三乾電池3本を1日で使い切ることになりかねない。実際Wi-SUNでは送信出力を20mW程度に抑えることで省電力性を維持しようとしており、この出力では2.4GHzを使って到達距離500mを実現するためには、かなり指向性の強いアンテナが送受信の両側に必要になる。

 これに対してWi-SUNは920MHz帯を利用する事で、同じ送信出力でもより長距離に伝達が可能になった。もともとIEEE 802.15.4では868〜868.6MHz(868MHz帯)、902〜928MHz(915MHz帯)、2400〜2483.5MHz(2450MHz帯)という3種類の帯域が定義されており、868MHz帯は欧州、915MHz帯は米国、2450MHz帯が全世界という割り振りになっていた。これは別に、日本では868MHz帯が技術的に使えないという話ではなく、国ごとに許される周波数帯が違っているからだ。

 日本は従来は2450MHz帯一択だったが2012年7月から総務省がISM(Industrial, Scientific and Medical)バンドとして915MHz帯の一部を利用可能と定めたことで、この周波数を利用することを決めた形だ。ただ日本においては利用可能な範囲が915〜928MHzになっており、これを念頭においた上でWi-SUNは920〜928MHzを利用する形で仕様を定めている。

 このWi-SUNを利用してのイメージはこちら(Photo01)で、基本的には各家庭と信号収集局の間をマルチホップでつなぐ、一種のメッシュネットワークを構築する形になる。ただしWi-SUNはこれにとどまらず、家庭内のさまざまな機器をも接続することを念頭においてのプロファイル拡張も行っており、既に幾つかの試作品も存在する(Photo02)。

Wi-SUNの利用イメージ
Photo01:これと次のPhoto02はこれはNICT 児島史秀氏の「国際標準規格Wi-SUNに関するNICTの取組み」( http://www.ttc.or.jp/index.php/download_file/view/6607/3481/ 、2015年5月)というスライドからの抜粋
Wi-SUNの利用イメージ
Photo02:第4層のPANAは、認証プロトコル(Protocol for Carrying Authentication for Network Access)のこと

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