「特許で保護するには適さないノウハウ」をどうやって保護するか?:いまさら聞けないNDAの結び方(3)(4/4 ページ)
オープンイノベーションやコラボレーションなどが広がる中、中小製造業でも必要になる機会が多いNDAについて解説する本連載。今回は、NDAを活用して秘密情報を開示する際、「特許で保護するには適さない情報(ノウハウ)」をどのように保護したらよいかという点について解説します。
不正競争防止法によるノウハウの保護
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することを目的としています(同法1条)。そして、同法の保護を受ける「営業秘密」については、例えば、これを不正に取得し使用する行為(同法2条1項4号)であっても、秘密保持契約(NDA)を締結して正当に開示を受けた場合であっても、開示を受けた営業秘密を不正な利益を得る目的に使用する行為(同法2条1項7号)であれば「不正競争行為」とできる特徴があります。営業秘密保持者の営業上の利益が侵害される(もしくは侵害のおそれがある)場合は、不正開示行為や不正使用などの差し止めを求めることができます(同法3条)。
また、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害すれば、この侵害によって発生した損害を賠償する義務を負うとされています(同法4条)。さらに詐欺などによって営業秘密を取得した場合は刑事責任が問われることもあり得ます(同法21条)。
ただ、ここで注意したいのは、自社として秘密であると考える全ての情報が不正競争防止法の保護を受けられるわけではないことです。不正競争防止法の保護を受けることができる「営業秘密」は一定の要件を満たすものに限られます。具体的には、下記3つの要件をクリアしてはじめて「営業秘密」となり、同法の保護を受けられるようになります(同法2条6項)。
- 秘密として管理されていること(秘密管理性)
- 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
- 公然と知られていないこと(非公知性)
つまり、不正競争防止法の保護を受けたいのであれば、上記1〜3の要件を満たすように自社の秘密情報を管理しなさい、ということになります。
上記1〜3のうち、企業活動に基づく秘密情報であれば一般的に2、3は満たされると考えられます。そのため特に重要になるのは「秘密管理性(1)」が満たされるかどうかです。そして、裁判例を見て見ると、秘密管理性が認められるためには、以下の2点を押さえなければなりません。
- 情報へのアクセス制限がされていること(アクセス制限)
- 情報にアクセスした者に対して、その情報が営業秘密であると認識できるようにされていること(客観的認識可能性)
例えば「営業秘密を扱う権限を有する管理者を限定し、管理者各人にIDやパスワードを付与し(アクセス制限)、情報に「社外秘」と言う表示を目立つように付しておく(客観的認識可能性)」というような対応をとると秘密管理性(1)は認められやすくなるといえます。なお、秘密管理性の証明については、2つの要件が厳しすぎるとの批判があり、緩和への動きもあるようです。しかし、ここでは従前の裁判例に従って、先述した2つの要件を満たす必要があると考えて話を進めます。
3つの要件を満たすことができれば、「営業秘密」となる情報は不正競争防止法による保護を受けられるようになります。つまり「特許出願になじまない技術」の保護については、先述した3つの要件(特に1)を満たすような管理体制を作っておくことが重要になるというわけです。
不正競争防止法による裁判事件
実際に、他社(海外企業など)との共同開発(コラボレーション)や、退職従業員などによる技術流出は、製造業の周辺ではよく起こっています。最近の大きな事件としては、新日鉄住金と韓国ポスコとの間で不正競争防止法に基づく訴訟闘争がありました。
新日鉄住金が保有していた独自の方向性電磁鋼板技術の情報を退職従業員を介してポスコが不正に取得したとし、2012年に新日鉄住金が不正競争防止法に基づき損害賠償などを請求した裁判です。この裁判は、2015年10月1日の新聞報道によれば和解が成立しポスコが新日鉄住金に和解金300億円を支払い、今後は新日鉄住金がポスコに条件付きで技術ライセンスを供与するということで決着したとされています。
こうした事件もあって、「営業秘密」の保護強化の観点から、不正競争防止法の改正が国会で2015年7月に可決・成立し、刑事罰を厳しくする、損害賠償請求の立証を容易にするなどの改正が行われることになっています。
今日はこのくらいにしましょう。次回からは、秘密保持契約(NDA)締結の際の留意点について説明します。
第4回:「大手との協業、NDAを結ぶ前に「目的の明確化」が必要な理由」
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