「キャスト」の3モデル同時開発を実現したデザイン案ストックと3Dデータ活用:車両デザイン(3/3 ページ)
ダイハツ工業は、新開発の軽自動車「キャスト」を発表した。個性の重視によってデザインへの要求が多様化する市場需要に対応し3つのバリエーションモデルを用意したことを特徴とする。これら3つのバリエーションモデルの同時開発を実現したのが、「デザイン案ストック」と「3Dデータ活用」である。
「デザイン原案のストック」と「3Dデータの活用」
これら3つのバリエーションモデルの同時開発を進める上で、さらに商品化へのリードタイム短期化にも挑戦した。その手法は「デザイン原案のストック」と「3Dデータの活用」である。
自動車の開発段階は、スケッチなどによって外観や内装を模索していくデザイン開発と、デザイン開発を受けて始める量産開発に分けられる。今回のダイハツの取り組みでは、従来のデザイン開発が完了してから量産開発に入るワンオフ方式ではなく、デザイン先行開発によってデザイン原案をストックしておくストック方式を採用した。上田氏によれば「世の中の価値観やトレンドを先取りしたデザイン原案をストックし、そこから完成度の高いデザインを素早く量産開発のための設計図面に落とし込むことができる。ワンオフ方式からストック方式への変更で、デザイン開発の期間は半分まで短縮できた」という。
そして、デザイン開発から量産開発へ以降する際に3Dデータを活用することで、正式な図面製作から量産開始までの期間を10カ月に短縮することができた。ここで言う、3Dデータの活用とは、デザイン原案の時点から設計図面を意識してデータを作成することや、デザイン開発側と量産開発側の設計内容をすり合わせる際の情報のやりとりをスムーズにすることなどが挙げられる。「2014年に6車種の新型車を投入した際に進めてきた取り組みだが、これまでは最長で正式な図面製作から量産開始まで12カ月かかっていた。それを、3バリエーションモデルの同時開発という厳しい条件付きでありながら、10カ月に短縮できたことに大きな意義がある」(上田氏)。
従来の軽自動車では、標準モデルとカスタムモデルの2モデルを用意するのが一般的だ。この場合の開発は、標準モデルの開発がある程度進展してから、その標準モデルをベースにカスタムモデルの開発を始める。つまり、正確には2モデル同時開発にはなっていない。キャストは、その常識を覆した上で、さらに2モデルではなく3モデルの同時開発を実現しているところにもすごみがある。
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