新型「タント」の燃費が「スペーシア」を超えなかった理由:エコカー技術(1/3 ページ)
ダイハツ工業はスーパーハイトワゴンタイプの軽自動車「タント」をフルモデルチェンジした。JC08モード燃費は28.0km/l。従来モデルから12%向上したものの、競合車種の「スペーシア」の29.0km/lを上回ることはできなかった。これは、軽量化によって得られた車重の余裕を、燃費性能ではなく、使い勝手と乗り心地に振り分けたためだ。
ダイハツ工業は2013年10月3日、スーパーハイトワゴンタイプ(車両全高が1700mm以上)の軽自動車「タント」をフルモデルチェンジしたと発表した。ピラー内蔵型ドアとスライドドアにより、助手席側が大きく開く「ミラクルオープンドア」などの従来からの特徴はそのままに、運転席側の後席ドアをパワースライドドアに変更するなど使い勝手を高め、静粛性や走行安定性の向上により乗り心地を大幅に改善した。
JC08モード燃費についても、樹脂パーツの採用拡大などによる軽量化や、独自の低燃費技術「e:S(イース)テクノロジー」の適用により、従来の25.0km/l(リットル)から28.0km/lに向上した。価格は、通常モデルが、「Lグレード」の117万円から。カスタムモデルとなる「タント カスタム」は、「Xグレード」の147万円から。全てのグレードで、先行車両との衝突を回避できる運転支援システム「スマートアシスト」を5万円で追加できる。国内月間販売目標台数は1万2000台。
スズキとの抜きつ抜かれつの燃費競争
現在、スーパーハイトワゴンタイプの軽自動車市場における競争は激化している。従来は、タントとスズキの「パレット」が同市場を二分していたが、ホンダが2011年12月に発売した「N BOX」は、軽自動車市場全体でもトップの売れ行きを見せるなど、2社の牙城を揺るがし始めた。
これに対してスズキは2013年2月、パレットに替えて新たなスーパーハイトワゴンタイプの軽自動車として「スペーシア」を投入(関連記事:スズキの「スペーシア」は「N BOX」より110kg軽い、「タント」とも比較)。パレット比で90kgもの軽量化や、減速エネルギー回生機構「ENE-CHARGE(エネチャージ)」などの搭載により、JC08モード燃費で29.0km/lを達成した。
新型タントでは、N BOXとスペーシアという競合2車種の性能をどのようにして上回ってくるかに注目が集まっていた。特に、「ミラ イース」対「アルト エコ」(関連記事:「エネチャージ」搭載でJC08モード燃費が33km/lに、スズキの「アルト エコ」)、「ムーヴ」対「ワゴンR」(関連記事:「ワゴンR」のJC08モード燃費が30.0km/lに、プリクラッシュも4〜5万円で搭載可)という形で、抜きつ抜かれつの燃費競争を繰り広げているスズキに対しては、新型タントでスペーシアの29.0km/lというJC08モード燃費を上回ってくるのではないかと予測されていた。
進化版「イーステクノロジー」を採用し空力性能も向上
しかし、先述した通り、新型タントのJC08モード燃費は28.0km/lにとどまった。なぜ、スペーシアを上回ることができなかったのか。その理由を探るべく、まずは新型タントの燃費関連で新たに導入された技術要素を見ていこう。
新型タントの燃費向上に貢献した技術要素を大まかに分けると3つある。1つ目は、独自の低燃費技術「e:S(イース)テクノロジー」をさらに進化させたことだ。従来モデルのタントは、2011年9月発売のミラ イースから採用を始めたイーステクノロジーを適用し、JC08モード燃費を25.0km/lまで向上していた。新型タントでも、33.4km/lというJC08モード燃費を達成した2013年8月発表のマイナーチェンジ版ミラ イースで採用している、進化版イーステクノロジーを適用して、燃費向上につなげた(関連記事:「ミラ イース」のJC08モード燃費が33.4km/lに、「e:Sテクノロジー」が進化)。
なお、進化版イーステクノロジーは、2012年12月にマイナーチェンジしたムーヴに採用したイーステクノロジー第2弾(関連記事:新型「ムーヴ」の燃費は「ワゴンR」以上、走行性能でも「N-ONE」に対抗)をさらに進化させたものだ。
「タント」の従来モデルと新モデルの燃費比較。黄色で示した部分(パワートレーンの進化、エネルギーマネジメント)が、進化版イーステクノロジーやイーステクノロジー第2弾の採用によって得られた燃費向上効果である。赤色で示した部分(車両の進化)は、空力性能の向上による燃費向上効果だ。(クリックで拡大) 出典:ダイハツ工業
2つ目は空力性能の向上である。通常タイプの「ミラ」やミラ イース、ハイトワゴンタイプのムーヴと比べて、全高が高いスーパーハイトワゴンタイプのタントは、空力性能が悪くなる傾向にある。しかし新型タントは、新たに2つの空力パーツを採用して、空力性能を示すCd値を、ミラと同等の値まで低減した。1つは、フロントウィンドウから側方への空気流がより滑らかになるよう、樹脂製のAピラーの形状を工夫した。もう1つは、バックドアとスポイラーの一体化により、車両後方によりスムースに空気が流れるようにしたことだ。なお、バックドアとスポイラーの一体化は、樹脂化によって実現している。
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