トヨタ自動車が人工知能研究で米国2大学と連携、DARPAのプラット氏もスカウト:自動運転技術
トヨタ自動車は、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学と人工知能に関する研究で連携していくことで合意。今後5年間で、両大学に対して合計約5000万米ドルを投資し連携研究センターを設立する。DARPAの災害救助ロボットコンテスト「ロボティクスチャンレジ」の担当者を務めたギル・プラット氏を招いたことも明らかにした。
トヨタ自動車は2015年9月4日(米国時間)、マサチューセッツ工科大学のコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL:Computer Science and Artificial Intelligence Laborator)とスタンフォード大学のスタンフォード人工知能研究所(SAIL:Stanford Artificial Intelligence Laboratory)と、人工知能に関する研究で連携していくことで合意した。と発表した。同社は今後5年間で、CSAILとSAILに対して合計約5000万米ドルを投資し、それぞれの研究所内に連携研究センターを設立する。
両研究所の連携研究センターでは、自動車やロボットへの応用を目指し、以下の3つのテーマを中心に研究を推進する。
- さまざまな環境における物体の認識
- 高度な状況判断
- 人と機械との安全な相互協調
米国で開催された記者会見に登壇したトヨタ自動車の伊勢清貴氏は、「自動運転にも応用されている人工知能やロボット技術に関するトヨタの研究開発の歴史は何十年にもわたる。今回の発表はそのさらなる一歩につながるものだ。人工知能研究は将来のモビリティに変革をもたらす可能性を秘めている。クルマの安全性を向上させ、渋滞を緩和するだけでなく、皆さまの暮らしをより良いものにするだろう。また、人工知能は世界中の技術革新を支える原動力となっている。それは自動車という領域にとどまらず、産業活動全般に影響を与える可能性がある。われわれは、この技術領域の重要性や、自動車会社だけでなく多くの企業が技術開発にしのぎを削っていることも理解している。従って本日の報告は、人工知能やロボット技術に関し、これまでにない取り組みの始まりを伝えるものになる」と語る。
併せて伊勢氏は、トヨタ自動車自身における自動車やロボットの知能化研究を強化していくため、DARPA(国防高等研究計画局)で災害救助ロボットコンテスト「DARPA Robotics Challenge(DRC)」のプログラムマネジャーを務めていたギル・プラット(Gill A. Pratt)氏を招いたと発表した。両大学の人工知能研究所との連携研究センター設立にはプラット氏も関わっており、両連携研究センターで今後実施する研究やその活用も、同氏の助言を得ながら推進していく。
プラット氏は、2010年1月〜2015年8月までDARPAのThe Defense Sciences Office(防衛科学研究室)に所属し、2013年12月(予選)〜2015年6月(本戦)に開催されたDRCのプログラムマネジャーを務めた。それ以前も、マサチューセッツ工科大学の歩行ロボット研究所Leg Labで助教授兼ディレクターや、Franklin W. Olin College of Engineering(オーリン工科大学)の教授などを歴任しており、ロボットとその知能化技術で知られる。
伊勢氏は「多くの方がご存じの通り、プラット博士はこの研究分野を先導されている中心人物の1人。今回、プラット博士の協力のもとでトヨタの研究開発を強化できることをとてもうれしく思っている。今年(2015年)4月に初めてプラット博士とお会いした際、博士に将来のモビリティの在り方について尋ね、彼と私の意見は同じであるということが分かった。それは人を助け、人の暮らしをより良いものにするのはもちろん、楽しいものでありつづけるであろうというもの。私自身、この新しい挑戦が私たちに何をもたらすのか、ワクワクしている。今後皆さまに、さらなる報告ができればと思っている。両大学やプラット博士とともに、素晴らしい成果を生み出せると信じている」と語っている。
マサチューセッツ工科大学教授でCSAIL所長のダニエラ・ラス(Daniela Rus)氏と、スタンフォード大学教授でSAIL所長のフェイフェイ・リ(Fei-Fei Li)氏のコメントは以下の通り。
「われわれの研究チームでは、周囲の環境を認知し、安全な走行を実現するための先進的な自動車のアーキテクチャを研究する。一連の研究は、交通事故死の低減や、事故を予防するクルマの開発にも大きな役割を果たすと考えている」(ラス氏)
「われわれは、スタンフォード大学が誇る視覚情報処理および機械学習、大規模データ解析などの技術に基づいて、自動車がさまざまな状況下で物体や人の動きを認識、予測し、安全で適切な判断をするための技術に取り組んでいく」(リ氏)
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