NDAを結ぶ前に「特許出願」を行うべき3つの理由:いまさら聞けないNDAの結び方(2)(4/4 ページ)
オープンイノベーションやコラボレーションなどが広がる中、中小製造業でも必要になる機会が多いNDAについて解説する本連載。今回はNDAを活用して秘密情報を開示する前にまず特許出願が必要だという点について解説したいと思います。
強気の交渉を生み出す特許出願
3つ目の理由は、CFGモーターズが、モーターの小型化を「大江戸モーターと組まなければ実現できない」という状況を作り出すためです。ある意味で特許出願の最大の目的はこの点に尽きるといえるかもしれません。
特許出願をする理由
この理由について解説する前に、まずは特許権の機能について説明します。
第1図に示すように、特許権の機能は「特許の内容について自分だけが独占して使用(実施)できること(自分以外の何人も特許の内容を実施することができない)」という点にあります。
例えば、Aさんが特許権を持っており、この特許権の内容(特許された技術)をBさん、Cさん、Dさんがそれぞれ使用しているとしましょう。この時、Aさんは、B、C、Dさんそれぞれに対して、「使用を止めるように」との請求(差止請求)、「これまでの使用に対しては損害を賠償するように」との請求(損害賠償請求)が可能となります(第1図参照)。このように、特許権は「誰に対しても権利行使ができる」という点がポイントです。
こうした特許権の基本的な機能を理解した上で、第2図に示す事案を考えてみましょう。第2図では、A社(ベンチャー企業)は、新規商品のアイデアについて特許出願を済ませた上で、B社(大企業)と交渉に入り、同社に新規商品のアイデアを紹介しました。ところが、B社は、A社を外してC社と組んで、紹介された新規商品の商品化を行い、販売しました。
こうした場合、A社はこの販売を止めさせることができるでしょうか。答えは「できる」です。A社は、B社とC社に対し、既に済ませていた特許出願について得た特許権に基づき、新商品の販売を止めるよう求めることができます(第1図で説明した差止請求権の行使)。
A社は、交渉に入った段階で「公開した新商品のアイデアについて既に特許出願している」と説明しておけば、B社に対し「A社に無断で商品化した場合はA社から特許権の行使を受ける」という無言のプレッシャーをかけることができます。ひいては「この新商品を商品化するためにはA社と組むしかない」という方向に交渉を持っていくことができるようになります。
交渉の方向性をコントロールする
大江戸モーターについても同じ仕組みが当てはまります。第1回の打ち合わせまでに、開示予定の「情報A」について特許出願を済ませておけば、CFGモーターズに対して「本日の打ち合わせで説明した『情報A』につき、当社は既に特許出願済みです」と圧力をかけることが可能です。最終的に「大江戸モーターと組むことが最も効率的に自社の技術を実現する手段だ」という方向に、交渉を誘導することができるようになります。
この「特許権の機能を利用して、協業の交渉を有利に進める仕掛けを作る」ということが3つ目の理由になるわけです。
特許出願したからといって全て安心なわけではない
ただし、特許出願といっても万能ではありません。この3つ目の理由を機能させるためには、出願した特許出願(得られる特許権)が、裁判を戦い抜ける“強さ”を持っている必要があります。つまり裁判で勝てる特許を持っているかどうかという点がポイントになって来るわけです。
第2図で「A社は、B社とC社に対し、既に済ませていた特許出願について得た特許権に基づき、新商品の販売を止めるよう求めることができる」と説明しましたが、訴訟前の交渉でB社が納得しない場合は、最終的には特許権侵害訴訟を提起することになります。
その際に、例えば、特許権に抜け道があって、ちょっとした設計変更で特許権の範囲(これを特許法では「特許発明の技術的範囲」といいます)から外れた新商品が製造できてしまえば、特許権を侵害しているとは主張しにくくなります。そうすると、B社に対して「どうせ抜け道を使えばいいのだから」と圧力は不十分なものとなります。
せっかく特許出願しても、その内容が不十分なものだと、3つ目の理由が十分に機能しません。当然ですが、特許出願した内容(出願の書類の記載内容)が非常に重要となるわけです。大江戸モーターの江戸氏もこの点を十分に留意して「情報A」について特許出願する必要があります。
さて、次回は、自社の秘密情報を保護するための「法律上の保護」と「秘密保持契約による保護」について説明します。
第3回:「『特許で保護するには適さないノウハウ』をどうやって保護するか?」
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