NDAを結ぶ前に「特許出願」を行うべき3つの理由:いまさら聞けないNDAの結び方(2)(3/4 ページ)
オープンイノベーションやコラボレーションなどが広がる中、中小製造業でも必要になる機会が多いNDAについて解説する本連載。今回はNDAを活用して秘密情報を開示する前にまず特許出願が必要だという点について解説したいと思います。
アイデア盗用による無用の紛争回避
2つ目の理由である「アイデア盗用による無用の紛争回避」は仕組みはシンプルです。アイデアを勝手に盗まれることを特許出願によって防ぐということになります。
NDAを結んでいようと、開示した情報Aが相手方に無断で使用される可能性が生まれます。本来はそれをさせないためのNDAなのですが……。
例を見てみましょう。大江戸モーターが最初のミーティングで「情報A」を開示したところ、CFGモーターズが「情報A」を利用した特許出願を行ったとします。
こうした特許出願は「真実の発明者(江戸氏)を排除し、CFGモーターズが特許を受ける権利の一部を保有していない」という特許法上の問題があります。さらに、大江戸モーターとCFGモーターズとの間には秘密保持契約がありますので、秘密情報(情報A)の開示目的が「両社が協業するか否かを検討するため」に限定されているのが通常です。もし、この契約で「秘密情報を開示目的以外の目的で使用することが禁止されている」場合には、CFGモーターズによる「情報A」の特許出願は「秘密情報である『情報A』を開示目的以外の目的(特許出願の目的)で使用すること」にあたるため、秘密保持契約違反となります。
こうした無断での特許出願は、特許法上も秘密保持契約上も問題となりますので、本来であれば行われるべきことではないですが、実際のビジネスの現場では、時折こうした特許出願を見掛けます。最近は、企業の法令順守(企業コンプライアンス)が重視されていますので、減っていくだろうとは思います(そう期待しています)が、こうした状況は特に大手と中小企業の取引では起こりがちです。では、こうした特許出願が起こった時に、中小企業はどういう状況に陥るのでしょうか。
訴訟を支える体力の問題
さて、江戸氏がCFGモーターズによる無断での特許出願を発見しました。
「情報A」は当社のものです。勝手に利用して特許出願するなんてひどいじゃないですか! 返してください!
江戸氏としては「情報A」は自社のものであると主張して、CFGモーターズから特許出願を取り返したいところです。そして、うまくこれらを証明できCFGモーターズ側が折れれば、特許法的にも裁判実務的にも、特許出願を取り返すことは可能です。しかしながら、CFGモーターズとの交渉が上手く進まない場合は、訴訟を提起して特許出願を取り返すことを試みなければなりません。
この新たな特許はわが社のものです。裁判ではっきりさせましょう。
いざ訴訟になると、裁判費用の支出が必要になる上、多くの手間や時間が必要になります。例えば、最高裁まで争った場合には裁判は短くても2〜3年程度と長期化します。
大企業であれば問題ないでしょうが、中小企業やベンチャーでは、盗用を証明する調査や裁判の手間や費用が大きな負担となります。結果として、訴訟が長期化した時に訴訟を維持することができず、情報に関する権利を放棄せざるを得ないという状況が生まれるかもしれません。これらを回避するための何らかの手段が必要になります。
こうした事態を引き起こさないためにも必要になるのが、特許出願ということになるわけです。第1回の打ち合わせまでに、大江戸モーターが「情報A」について特許出願を済ませておけば、これらの紛争を回避できることは容易にご理解いただけると思います。
次に、特許出願の最大の目的ともいうべき「協業しなければ技術を実現できない状況を作り出す」ということについて解説したいと思います。
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