NDAを結ぶ前に「特許出願」を行うべき3つの理由:いまさら聞けないNDAの結び方(2)(2/4 ページ)
オープンイノベーションやコラボレーションなどが広がる中、中小製造業でも必要になる機会が多いNDAについて解説する本連載。今回はNDAを活用して秘密情報を開示する前にまず特許出願が必要だという点について解説したいと思います。
情報のコンタミ(汚染)の防止
1つ目の理由である「情報のコンタミを起こさない」については、技術やアイデアなど形のないモノをテーマにビジネスを行う際には必要な考え方です。分かりやすく言うと、その情報はもともとどちらの着想だったのかを明確化しましょうということです。ただし情報は形がないものですので、話し合いの中でどうしても混在しがちになるものです。例を見てみましょう。
こちらがわが社のモーター小型化技術の一部情報(情報A)となります。
なるほど。素晴らしい技術ですね。ただ、この構造であれば、わが社のこの設計の工夫を取り入れれば、さらなる小型化が可能になるかもしれません(情報B)。
さすがCFGモーターさんですね。その発想はありませんでした。ただ、その考えをこの小型化技術に取り入れると、小型化だけでなくパワーを向上させられますね。だとすると、他の用途にも活用できるかもしれません(情報AB')。
この例ではディスカッションにより「情報の持ち主が誰なのか」というのが分からなくなる様子を示しています。まず、江戸氏が「情報A」を開示した時に、矢面氏が「情報B」を提示。そしてこのディスカッションのやりとりで「情報AB'」が生まれます。この「情報AB'」は、誰のものでしょうか。
大手が混在情報の所有権を主張
技術者同士がディスカッションをした場合、いろいろな新しいアイデアが生まれてくる可能性があります。こうした状況においてありがちなのは、後になって「力の強い側(この場合はCFGモーターズ)」が「自分のもの」と主張するケースです。
「情報AB'」は当社の技術情報を付加して新しく生まれたものです。ですから、当社に帰属すべき技術だと考えています。
大手企業と中小企業・ベンチャーの取引において、こうした力関係によるやや不公平にも思える関係が生じがちです。大江戸モーターとしては、こうした主張を受け入れることに抵抗はあるものの、ビジネス上の力関係から受け入れざるを得ません。
「情報AB'」については、CFGモーターズさんの帰属になっても仕方ありません。しかし、もともとの技術である「情報A」は当社のものですよ。
しかし、「情報A」を含む「情報AB'」の帰属がCFGモーターズのものになった場合、江戸氏が後になって「情報A」が自社に帰属するものだと主張しても、この主張を裏付ける確たる証拠がない場合、江戸氏の主張が受け入られる可能性は低くなります。協業を見据えたミーティングだったはずが、気付けば虎の子の技術を奪われるだけ、ということになりかねないわけです。
オリジナル情報の所属を明確にする
ただ、第1回の打ち合わせ前に特許出願が済んでいれば、この特許出願の書類(明細書、特許請求の範囲)には情報Aが記載されていることになります。この書類は、特許出願の日(書類が特許庁に提出された日)の情報と共に、その内容が特許庁によって公開されますので、出願日時点で大江戸モーターが情報Aを保有していたことが、明確に示せます。この書類が動かぬ証拠となりますので「情報A」が大江戸モーターに帰属する証明が容易になるのです。
このように、協業の検討において大江戸モーターの情報と、CFGモーターズの情報とがコンタミを起こした場合(情報A+情報B→情報AB’)においても、特許出願を済ませておくことで「何が自社オリジナルの情報であるのか」立証できるというわけです。
次に2つ目の理由である「アイデア盗用による無用の紛争回避」について説明します。
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