DNAから染色体を作るための重要な過程を発見:医療技術ニュース
東京大学は、ひも状のDNA分子が折り畳まれて染色体が形成される際に重要な役割をもつ反応を発見し、遺伝情報の源であるDNAが細胞の中で安全に保管される仕組みの一端を明らかにしたと発表した。
東京大学は2015年7月23日、ひも状のDNA分子が折り畳まれて染色体が形成される際に重要な役割を持つ反応を発見し、遺伝情報の源であるDNAが細胞の中で安全に保管される仕組みの一端を明らかにしたと発表した。同研究は、同大分子細胞生物学研究所の須谷尚史助教、白髭克彦教授、同大大学院農学生命科学研究科の坂田豊典大学院生らの研究グループと、理化学研究所の平野達也主任研究員の研究チームにより行われた。
染色体は、細胞が持つ遺伝情報の源であるひも状の分子・DNAが高度に折り畳まれ、束ねられてできる構造体となる。従来、染色体の形成過程では、コンデンシンというタンパク質複合体が機能することが知られていたが、DNA鎖の折り畳みにどう関わっているかは分かっていなかった。
同研究グループでは、モデル生物の分裂酵母においてコンデンシン複合体がゲノムDNA上のどの部位に結合して機能しているかを、次世代DNAシークエンサーを用いたChIP-seq法という解析手法で調査した。その結果、コンデンシンは遺伝情報の読み取り(転写)が活発な部位に集中して結合していることが明らかになった。
さらに解析をしたところ、コンデンシンが結合するDNAには、二重鎖がばらばらになった単鎖状態の単鎖DNAが含まれていることが分かった。また、単鎖DNAは、細胞分裂期の核中で遺伝子の読み取り(転写)が起こる部位に存在していること、その生成は転写反応によること、コンデンシンを欠く細胞では、単鎖DNAの量がさらに増えることも分かった。一方、コンデンシンの機能が低下した細胞では、染色体の分配が正常に進まないが、転写を阻害する物質を添加すると、この現象が緩和されたという。
これらの結果から、転写においてDNA二重らせんが巻き戻されることで単鎖DNAは作り出されること、単鎖DNAの存在は染色体形成を妨げる作用があること、コンデンシンは単鎖DNAを元の二重らせんに戻す働きがあることが分かった。
従来、転写などでほどけたDNA鎖は、自発的に二重鎖に再生するとされていたが、今回の成果により、細胞は生存のために再生反応を積極的に制御していることが明らかになった。同成果は、単鎖状態のDNAの存在が染色体の構築を妨げることを示したもので、染色体の形成メカニズムを理解する上で大きな糸口となることが期待される。
なお、同成果は、2015年7月23日に英科学誌「Nature Communications」に掲載された。
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