「はやい」だけではダメ! 今までにないものを作ってこそ3Dプリンタは意味がある:JIMTOF2014 基調講演(1/2 ページ)
工作機械と関連製品/技術の展示会「第27回日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2014)」の基調講演として東京大学 生産技術研究所 教授の新野俊樹氏が登壇。「Additive Manufacturingを核にした新しいモノづくり――3Dプリンタの未来像」をテーマに付加製造技術の発展の歴史と今後の課題について語った。
工作機械と関連製品/技術の展示会「第27回日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2014)」(2014年10月30〜11月4日、東京ビッグサイト)では、初日に当たる2014年10月30日に、3Dプリンタに用いられている付加製造(Additive Manufacturing)技術を研究する東京大学 生産技術研究所 機械・生体系部門 付加製造科学研究室 教授の新野俊樹氏が基調講演を行った。「Additive Manufacturingを核にした新しいモノづくり――3Dプリンタの未来像」をテーマとし、3Dプリンタなど付加製造技術を組み合わせた今後の製造技術の方向性などについて解説した。
定着が進む「試作」用途とそれ以外を分けて考える
新野氏は1990年代から付加製造技術の研究を進めてきた。当時は付加製造技術を説明するのも困難だった状況だったが「ここ2年間で状況は大きく変わった。今では小学生でも知るようになった」(新野氏)と話す。
ブームのきっかけとして米国での政府の3Dプリンタに関する政策や、メイカーズムーブメントの高揚、安価な3Dプリンタの登場を挙げるが「普及が定着してきた分野とまだブームの域を出ていない領域とを分けて考える必要がある」と新野氏は指摘する(関連記事:3Dプリンタは、企業向けが「幻滅期」、一般向けが「“過度の期待”のピーク期」)。
3Dプリンタは「ラピッドプロトタイピング」として1990年代半ばに大きなブームを巻き起こした。その際に使用された「試作」用途での付加製造技術は、既に定着段階に入っている。一方で、家庭に普及するような一般ユーザー向けのモノや、最終製品に使われるようなモノはまだまだ発展途上だといえる。新野氏は「これらの新たな動きを定着させていくためには、いろいろ考えなければいけない点がある」と指摘する。
7つの積層造形技術
付加製造は技術として世界で共通認識が進んでいるが、定義としてあるのは「データを基に何かをくっつけることで形を作る」ということだけで、実は非常に幅広い製造技術だ。現在実際に付加製造技術として、さまざまな用途で利用が進んでいるのは、そのうちの積層造形技術(Layer Manufacturing)だ。さらに積層造形技術にも、大きく分けると以下の7つの技術が存在するという。
- 液槽光重合(Vat Photopolymerization):タンクにためられた液状の光硬化性樹脂のモノマーを光によって選択的に硬化させる技術
- 材料押出(Material Extrusion):流動性のある材料をノズルから押出し、堆積させる技術
- 粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion):粉末を敷いた領域を熱によって選択的に溶融結合させる技術
- 結合剤噴射(Binder Jetting):液状の結合剤を粉末に噴射して選択的に固化させる技術
- シート積層(Sheet Lamination):シート状の材料を接着させる技術
- 材料噴射(Material Jetting):材料の液滴を噴射し選択的に堆積し固体化する
- 指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition):材料を供給しつつ、材料を選択的に溶融・結合する技術
このうち、光造形としてラピッドプロトタイピングで普及が進んでいたのは液槽光重合方式で、数多くの低価格3Dプリンタで採用されているFDM(熱溶解積層法)方式は材料押出方式の一部といえる。
3Dプリンタは「はやい、やすい、うまい」?
積層造形技術の利点として、新野氏は「さまざまな条件はあるが、まずは早いということがいえるだろう」と語る。先述した通り、積層造形技術の普及はまずラピッドプロトタイピングとして試作用途での利用から始まっている。その後「ラピッドツーリング」として金型など、製造のツール製作などに利用されるケースが登場。現在では、積層造形技術で最終製品を作る「ラピッドマニュファクチャリング」の領域が広がろうとしている。
新野氏は「積層造形技術は、成型技術や除去(切削)技術などに比べて、作業スピード自体は遅いが、金型の製造やその他の付加工程を減らすことができるので、早く形が実現できることが利点だ」と話す。一方で「製造業が求める収益性を考えた場合、『はやい、やすい、うまい』が追求される。この点においては積層造形技術は他の製造技術に比べ使いどころが限られる」(新野氏)と問題点を指摘する。最終的に同じものを大量に作るということであれば、成型技術が圧倒的な強みを発揮し、精度を求めるのであれば除去技術の方が優れているからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.