運転能力を低下させる白質病変、東京大学らが実車実験で確認:医療機器ニュース
東京大学と高知工科大学は、医学的に症状のない軽度の大脳白質病変(以下、白質病変)と診断された高齢の運転者は、そうでない高齢の運転者に比べて、運転能力が低下していることが実車実験で確認できた、と発表した。
東京大学と高知工科大学は2014年10月10日、医学的に症状のない軽度の大脳白質病変(以下、白質病変)と診断された高齢の運転者は、そうでない高齢の運転者に比べて、運転能力が低下していることが実車実験で確認できた、と発表した。MRI画像のデータから自覚のない軽度な白質病変を発見すれば、事前に運転能力を評価できる可能性があるという。
今回の研究成果は、東京大学生産技術研究所の中野公彦准教授らグループ、高知工科大学の朴啓彰客員教授を中心とする高知工科大学グループ、および、高知県警運転免許センターのグループが、高齢者による交通事故の増加を受けて、実車両を使って運転試験を行った。
高知検診クリニック脳ドックセンター長も務める朴氏は、これまでの経験から、白質病変(大脳内にできる細胞のすき間で、MRI画像で見ると白色に見える)の進行と交通事故発生件数の増加に関係性があることを感じ、10年間にわたりアンケート調査を行って、白質病変と交通事故タイプの関連性を調べた。
その結果、G2に分類される軽度の白質病変と診断された高齢の運転者に、交差点における事故の比率が高いことが分かった。これらのデータをミクロ的に解析するため、実車両を用いた運転試験を行うことになった。なお、白質病変は健康体の「G0」から、片側病変の「G1」、両側病変の「G2」、さらに進行すると「G3」、「G4」に分類される。G1、G2は軽度とされ、見た目も元気で自覚症状もなく、これまで医学的に脳機能の低下を示すデータは示されていないという。
この実験には、白質病変ではない高齢者(60歳以上)が11人、G2に分類される白質病変と診断された高齢者(60歳以上)が12人、そして20歳代の若人9人の合計32人が参加した。実験では、「左右折」、「信号交差点」、「車線変更」、「優先道路」、「一時停止」などを含むコースを設定。このコースを通常運転で2周、読み上げる数字を順次2個ずつ足し合わせて答えるPASAT(Paced Auditory Serial Addition Test)と呼ばれる音声負荷を加えた運転で2周走行して、運転能力のデータを収集した。
運転技能は高知県警の運転免許試験官が助手席に同乗してチェックした。評価は「運転ミス」、「重大なミス(交通法規違反など)」を点数であらわした。これとは別に、ハンドルの回転角を計測し、操舵の滑らかさをステアリングエントロピーという指標で評価した。
この結果、運転者に音声負荷を課すと、総じて注意力が散漫となりミスが増加することが確認できた。ただし、悪化する度合いは白質病変がある高齢者ほど高い。特に、白質病変がある高齢者は、右折時に操舵の滑らかさが大きく損なわれることが分かった。
今回の調査で、白質病変のある高齢者は、現実に運転技能が低下する可能性を示した。しかし、そのメカニズムは不明である。また、高齢者の交通事故件数が増加しているものの、その要因についてミクロ的な解析は十分とは言い切れないという。中野氏は、「ミクロ的な解析を継続していくことで、高齢運転者に対する効果的な対策、支援などを提案することができるのではないか」と話す。
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